香穂子から急にプロポーズをされた柚木はまるで犬を相手にしていると思った。
そう。
ストレートなプロポーズをした香穂子はまっすぐな視線で柚木の答えを待っていた。
それは、まるで犬のような愚直なまっすぐさで、柚木には持て余してしまう想いだった。
「……そんなに俺と結婚したいのか?」
「はい!」
「確かにストレートな表現はお前らしいが、もっと上手く誘えないのか?」
「え……」
「だから、おまえよりも上手く誘う女を知らないと思うのか、俺が?」
そう柚木が何気なくからかうと、先程までの真っ直ぐといえた香穂子の様子が変わった。
否、柚木に恋する乙女であるが故に、香穂子は言われた言葉を理解したが故に傷ついた。
その様な香穂子の表情を見た柚木は嬉しさを感じながらも再び意地悪な言葉を口にした。
「そんな顔もお前には似合うな」
「柚木先輩!」
「俺はこういう男だし、柚木という名を背負う事にもなる。隣に居る事もきついと理解してるのか?」
「わかっています! でも、柚木先輩の隣は誰にも譲りません! どんなきつくても、傷ついたとしても……」
「それは駄目だ。お前は俺のモノになるんだから、おまえを傷つける者が俺以外である事は駄目だよ」
「……」
「泣く暇があるなら俺に約束しろ。そして、これからは俺を名前で呼ぶこと。先輩と呼ぶ事も禁止だ」
「……梓馬、さん……は、私を選んで、くれるんですか?」
と柚木に問い返す香穂子に対し、柚木はただ香穂子の左手を自身の顔に近づけた。
そして、香穂子がその行為の意味に気付く前に、柚木は近寄せた左手の薬指にキスをした。
その行為の意味も察した香穂子はただ顔を真っ赤にしながらも視線を逸らせなかった。
また、柚木もあえて視線を近づけながら香穂子に命じる様に、願う様に、ただ告げた。
「その左手の薬指に合う指輪は用意するから……外すなよ?」
……柚木先輩でもドSを目指しましたが、敗色濃厚です。
ただ、当サイトの柚香らしいし小話になったかと。
なので、柚香の新作をお待ち頂いた方にも楽しんで頂ければ幸いです。