タジョウ ナ オトコ ノ ウワキ

軍用車から降りたユイラに対して、入り口で待っていた10人程の軍人が敬礼をした。

ロイを実質上の司令官とする東方司令部では珍しい光景だった。

なので、ものめずらしげに見る民間人も多くいた。

そんな敬意を受けたユイラは溜め息をついてから先頭に立つロイに声を掛けた。

「マスタング大佐、このような出迎えは不要です」

「お言葉ですが、セラブ将軍を初めてお迎えするのには足りないくらいです」

と言う『大佐』なロイの言葉に対して、ユイラは嫌悪をあからさまに示した。

「では、私が嫌いなのは覚えていたのかしら?」

「ですから、失礼にならない最低限の人数にさせて頂きました」

そう答えられたユイラは再び溜め息をついてから言った。

「……では、案内をしていただけるかしら?」

「はい、こちらです」

そう答えたロイはユイラを先導した。

 

 

 

ロイの執務室で仕事の打ち合わせを終えた時、ユイラはストレートに言った。

「女遊びはやめなさい」

「それはどういう意味でしょうか? いくら将軍閣下でも……」

「貴方が『女遊び』を再開するようになってから、私に同情して、好意的になった人もいるわ。それを理由に近づく輩も増えてくれたし」

そうユイラがロイの言葉を遮って言ったが、目立った反応はなかった。

それはユイラも予測していたことだから、気にせずに話しを続けた。

「若い私達を敵視する上層部も大人しくなったわ。でも、私は貴方だけが負担を負う守られ方は嫌いなの」

と言われたロイはらしい笑みを浮かべながら答えた。

「何のことでしょうか? セラブ将軍のように聡明な方でも嫉妬をされると……」

再びはぐらかそうとするロイに対して、ユイラは目を細めて言った。

「大総統閣下から、あの作戦をまた、頼まれているのだけれども?」

それを聞いたロイはキツイまなざしをユイラに向けた。

あからさまな嫉妬を見せるロイに対してユイラは微笑んだ。

「軍人は『大総統』にも『忠誠』を誓うものよ?」

「では、私の望みがかなった暁には?」

「言わなくてもわかるでしょう」

そう言ったユイラは紅茶を飲んだ。

飲んだ後、カップをソーサーに置いたユイラの手をロイはつかんだ。

「それでも、『私』の『誠』は貴女にだけです」

そう言った後、ロイはつかんだユイラの手の甲にキスをした。

それをユイラはさめた瞳で見ていた。

だが、その奥にある感情をロイは見抜いていた。

そして、それはユイラもわかっていた。

その時、ドアをノックする音がした。

「入りたまえ」

「失礼します」

そう言って、ホークアイはドアを開けて入ってきた。

だが、ロイは入室を許した時と同じようにユイラの手に触れたままだった。

ユイラも触れているロイをはなそうとはしなかった。

そして、ホークアイもそんな2人に対しては何にも言わなかった。

「準備が整いました。セラブ将軍、宜しいでしょうか?」

「では、案内をお願いしましょうか」

そう答えた時、ユイラは触れているロイを自然にはらった。

そして、ロイも自然にユイラの手をはなしてから紅茶を飲んだ。

だが、ロイのカップを持つ手が震えていることに、その場にいる人間は気付いていた。

そして、それを口にするものはいなかった。

 

 

 

ホークアイから仕事の説明が終った時、ユイラは表情を曇らせた。

「ごめんなさい」

そう言われたホークアイは目を見開いたので、ユイラは更に表情を歪ませた。

「今の私は彼の野望の足手まといだわ」

「セラブ将軍がそういうお気を使う必要はないと思います。むしろ、大佐の女癖の悪さは良くなった方です」

「確かに、未来の大総統に隠し子が増える可能性はなくなったと思うわ」

と、ユイラに答えられたホークアイは足を止めた。

その反応がわかっていたユイラは表情を歪めたまま、無理に微笑んだ。

「彼のキスには余裕がなかったわ。精神的な理由からだけではなく、ね」

「はい。大佐の『女遊び』は、セラブ将軍の『社交』よりも『挨拶』に近いです」

ホークアイが言外に『食事だけのデート』だと断言した。

それが分かっていたから、ユイラは小さく微笑んだ。

そして、ホークアイもそれを穏やかな瞳で見ていた。

それに気付いたユイラは表情を引き締めてから言った。

「でも、今の彼は『野望』の2つ名を返上することがあるような気がする」

「それはないでしょう」

そうホークアイはユイラの不安を否定すると再び歩き始めた。

ホークアイらしい強さを含む言葉はユイラの歩みも促した。

「大佐は貴女を手に入れる為にも、野望を捨てられなくなりましたから」

「……」

「それに、大佐の女遊びは今更です。むしろ、今は益がある分、マシだと思っています」

そう言うホークアイの言葉を聞いたユイラは素直に笑うことが出来た。

「貴女のような人がマスタング大佐の副官なのがとても嬉しいわ」

「おそれいります」

と、ホークアイは言葉を返すと、ある部屋の前で立ち止まってドアを開けた。

「有り難う」

その言葉に含まれた2重の意味を理解したホークアイは穏やかな笑みを返した。

 

 

 

 

 

この小説も過去作でオリキャラはロイの年下上官です。

題名は『多情な男の上気』という言葉のカタカナ表記にしました。

『多情』には浮気という意味もありますが、慈しむ様な深い愛という意味もあります。

『上気』は『じょうき』とも読め、その場合は感情的になって取り乱すという意味になります。