Continence 禁欲

 

穢された

 

そう思うべきなのに、私の中にそういった感情はない。

ただ、『よろこび』と『悲しみ』だけ。

あの男に組み敷かれ、心まで冒されたのに、私は悦びを感じた。

もしかしたら、私は『それ』を望んでいたのかもしれない。

そんな自分に悲しみを感じなくもないが、それを上回る現実がある。

私が『それ』を望んでも、あの男は手に入らない。

私に利用価値があるまでは『それ』を与えるだろう。

だが、それまでだ。

なのに、悲壮感はなく、むしろ、ある意味で喜ぶ私がいる。

『今』の私が個人のモノではなく、多くの犠牲の上にあることを自覚していたから。

でも、束の間の夢を見るくらいは許されるはずだ。

そう、夢なのだ、『かいらく』という名の……

 

そう考えていたユイラは同じ会議室に向っていたロイに出会った。

その時、笑みの奥にある感情に気付いたユイラは自分の思いを確信した。

 

 

 

ロイとの噂が蔓延し、それが事実として定着した頃、ユイラはハクロに絡まれていた。

それは、ロイよりも若いユイラがハクロよりも上の地位にいるからだとわかっていた。

だから、ユイラはハクロに対して適当に答えながらも聞き流していた。

ある意味で、今の彼の根底にある感情はユイラにも存在していると言えたから。

だが、それに気付かないハクロはユイラの逆鱗に触れてしまった。

「今夜、私の為に時間などを『さいて』戴けませんか?」

そう言われたユイラはハクロをまっすぐに見据えた。

その視線の清さはユイラがいつも纏っている雰囲気を強めた。

その雰囲気こそが、ユイラを表立って『大総統の愛人』と言わせない理由だった。

将軍となったのはユイラの実力とも言えるのだ、ある意味では。

だが、ユイラの能力は実践的なものよりも、指揮官として能力の方が優れている。

だから、近くにいなければ真の意味で理解することは難しい。

が、それでもユイラは『大総統の愛娘』と言われていた。

それは、ユイラがまとう雰囲気に多くのモノが気圧されていたからだ。

それ故に、合わせたかのように『紳士』めいた振る舞いで近づいてくる者が多かった。

もしくは、それに気付かずに『下衆』として近寄ってくる男しかいなかった。

だから、ロイのように『ユイラ』を求めてくるものはいなかったのだ。

わかっていなかったハクロはただ、ユイラの雰囲気に圧倒されていた。

それに止めを刺すようにユイラが口を開こうとした時、横槍が入った。

「すまないな、ハクロ将軍。今夜は私と約束済みなのだよ」

その声を聞いたハクロは顔面が真っ白になった。

青さを通り越した過剰な反応をするハクロに対して横槍を入れた人物は笑みを返した。

その笑みを見たハクロは取り繕うように言葉を返した。

「あ、いえ、こちらこそ失礼しました」

そう言ってから、ハクロは慌てて敬礼をした。

「私はこれから会議がありますので、失礼させて頂きます」

そう言ってハクロは無礼にならない程度の速さで走り去った。

ハクロの姿が見えなくなるまで見送った後、その人物はユイラに声を掛けた。

「無用なことをしてしまったな。だが、親馬鹿と笑って許してくれないか?」

「いいえ、大総統の私に対するお気持ちと高い評価は身に余る光栄です」

そう微笑むユイラの奥底の変化に気付いた大総統はそれを素直に指摘した。

「やはり、恋は女性を美しくするのだな」

「……そうですね。ですが、『花』も開けば『おちる』だけです」

「確かに、『開落』は理だ。そして、彼が望むものと君の立場は、甘い幻想に浸るには難しいだろう。だが、それでも、彼が司令部で何度も君を求める理由を考えた事はあるかね?」

そう言われたユイラは大総統の意図に気付いた。

ロイがユイラを頻繁に抱く理由とそこにある想いに気付けたから。

それは心の底からの慶びをユイラに与え、ユイラもそれを隠さずに喜んだ。

その笑みは、小さい頃からユイラを見守ってきた大総統が望んできたものだった。

そんな雰囲気をぶち壊すようにロイは怒りをまといながら乱入してきた。

そして、らしくないくらい慇懃無礼な態度でロイはユイラを連れ去った。

ロイの怒りの理由がわからなかったユイラはたしなめるように理由を問い掛けた。

だが、ロイは答えず、ただ、ユイラの腕を無理に引っ張っていた。

しかし、ユイラはロイの怒りの理由に途中で気付いた。

そして、それを確かめるようにユイラは自身が思ったことを口にした。

それを聞いたロイはユイラを部屋に押し込みながらキスをしてきた。

性急さとは裏腹な優しさに満ちたキスはユイラに与えられたことがないものだった。

そして、それに対する疑問よりも、陶酔をユイラに与えていた。

そんなユイラにロイは告白をした。

それは今の雰囲気には似合わないとユイラは想った。

けれども、ロイとの関係にはふさわしいようにユイラは思えた。

だから、ユイラもそれにあわせたようなキスをロイに返した。

 

 

 

 

 

この小説のオリキャラはロイの年下上官です。

また、文中にある『かいらく』には『快楽』『壊落』『開落』。

『さいて』には『時間を割く』という表的意味の他に『衣服を裂く』『身体を割く』『幸く』『咲かせる』という裏的な意味を含めました。