大胆な密命と作為的な再会

クラインでの騒動が一時的でも収束した頃、シオンの密命でダリスの王宮に潜入したキールとシルフィスは、騒動の原因であるディアーナとの再会に成功した。

そして、シオンから内密な依頼を受け入れたアルムレディンも秘密裏な再会に同席した。

その様な経緯を簡単にしか聞かされていなかったディアーナは、変わらぬ天然さでキールとシルフィスとの再会を喜んだ。

「まあ、久しぶりですわね、シルフィスとキール。シルフィスとも結婚してからは顔を見る事も難しくなりましたけど、元気そうで嬉しいですわ。あ、そうですわ。後でこっそりと、わたくしにも秘密通路の情報を教えて欲しいですわ、シルフィス?」

というディアーナの独壇場となった再会に対し、アルムレディンがあえて笑顔のまま水を差すように言葉を挿んだ。

「君の外出の手助けを、許可することは出来ませんよ?」

そう、アルムレディンに問われたディアーナがすぐにシュンとなり、言葉ではなくねだる様な視線を返した。

それを見せられたシルフィスは苦笑いつつも、ディアーナの変わらぬ様子に一安心した。

そして、同じ感想を抱きつつも、素直ではないキールは皮肉めいた言葉をディアーナに向けた。

「……やはり、変わっていませんね」

「どういう意味ですの、キール?」

と、ディアーナに問い返されたキールが『真実』を答える前に、シルフィスがあえて口を挿むように言葉を挿んだ。

「いえ、姫にお変わりが無くて良かったという意味です」

「わたくしも、シルフィスにも変わりが無くて嬉しいですわ。『姫』と呼んでくださる癖も」

「あ、す、すみません」

そうシルフィスは、自身の言動の拙さと立ち回り方の悪さも謝罪した。

だが、その様なシルフィスの言動を理解したアルムレディンは笑顔でフォローした。

「大丈夫だよ、シルフィス。私もディアーナのことを姫と呼ぶ事があるからね」

と、フォローをされたシルフィスは安心しようとしたが、その様な言動をアルムレディン以上に理解していたキールは、あえて『真実』という名の最終カードを口に出した。

「……それほど仲睦まじいのに、ダリスの王妃はクラインへ出戻りたいのですか?」

そういう、キールの率直すぎる言動に対し、シルフィスは非難する様な意図を込めた視線を向けた。

だが、キールの表情は変わる事なく、問われたディアーナは言葉の内容にただ驚いた。

そして、事前に『真実』を聞かされていたアルムレディンも、沈黙を返すディアーナに答えを求める様に問い掛けた。

「出戻りとは……外出以上に聞き捨てならない言葉だね?」

「……もしかして、わたくしがお兄様に書いた手紙が問題ですの?」

と、問い返したディアーナに対し、シルフィスはじっと見守る様にディアーナを見つめ、アルムレディンは事の成り行きを見極めようとし、キールは淡々と答えた。

「それ以外に理由があるとでも思うのですか? クラインではシスコンで暴走した国王が、ダリスから『姫』を奪還しようとする公然とした計画がいくつも練られていますよ」

と、キールに告げられたディアーナは、再び沈黙する事しか出来なかった。

しかし、その沈黙に耐えられなかった、いや、ディアーナの心境を察したシルフィスは、更なる現状を言葉にした。

「一応、実行段階に至らぬよう、シオン様とメイが止めています。そして、シオン様の提案としてダリスの国王へわたしたちの潜入の許可を頂いた次第です」

「……僕もクラインから不穏な挑発等の情報は、いくつも聞いていたから不思議に思っていたんだ。だから、クラインからの提案と現状報告を受けて驚いたよ」

そう告げるアルムレディンの言葉を聞いたディアーナは、思いと確認を求める様に、閉ざしていた口を開いた。

「……怒っていませんの、アルム?」

「確かにあの時は言い過ぎたと僕も思っていますから。でも、本気で出戻りをしたいというなら、覚悟してください」

「……覚悟?」

「貴女を引き止める手段を選ぶ気は、まったくありませんからね」

という、アルムレディンの脅迫めいた強い口調と有無を言わせぬキツイ視線をディアーナは受けたが、その強さに委縮するどころか互いの想いの強さを再確認したかのような熱い視線を返した。

それを見せられたシルフィスは苦笑いを、キールは深い溜息を吐きながら小さな声で呟いた。

「……本当に夫婦喧嘩は犬も食わないという言葉は間違いありませんね」

それを聞いたアルムレディンはニッコリと微笑み、ディアーナも満面の笑みを返した。

それ故に、シルフィスはすぐにキールのフォローに努めようとした。

「も、申し訳ありません」

「いいえ、わたくしが一番悪いのですわ。ダリスに潜入までさせてごめんなさい、シルフィスにキール」

と言いながら、ディアーナが謝罪しようとしたが、それ遮る様にシルフィスは笑顔で答えた。

「いいえ、久しぶりに王妃様のお顔を拝見させて頂けて嬉しいです」

「……シルフィスは王妃様の事を気にかけていましたから、ちょうど良い機会だったかと」

そうキールもシルフィスの想いをフォローする様に告げた。

その様な三者の会話を聞いたアルムレディンは、先程とは違う素の笑みを浮かべた。

「奥方思いで優しいんだね、キールは」

「シルフィスにベタ惚れなのは認めますけど、キールは意地悪ですわ」

と、ディアーナが日常話に切り替えようとした時、キールはアルムレディンに対しての最終カードを提示した。

「……王妃様に出戻りの意志が無い場合の提案も受け入れて頂けるのでしょうか?」

「……どういうコトですの?」

「セイリオス陛下は、アルムレディン陛下に非公式な会談を求めたのです」

そうキールが告げた言葉を聞いたディアーナは、セイリオスの心情を思い、その万感の思いを言葉にする事が出来なかった。

そして、セイリオスの事を気にかけるディアーナを想いつつも、アルムレディンは決意を秘めた強き瞳をキールの背後に向けても答えた。

「……それがディアーナの兄君の頼みならば、僕は受け入れます」

 

 

 

 

 

「前略、お兄様」の第2話です。

相変わらずアルムディアが前提ですが、登場キャラがメインCPよりも大活躍しているのは……当サイト仕様という事で(遠い目)