ダリスの国王、アルムレディンの元にディアーナが嫁いでから、定期的に送られてくる手紙を、セイリオスは国王という国務の合間の励みとしていた。
しかし、初めて、セイリオスはディアーナの手紙を蒼白となった表情で読んでいた。
そう。
ダリスで過ごす事になれつつある近況や、夫となったアルムレディンとのノロケなど、少しばかりセイリオスの感情を煽る事があっても、蒼白となるような事は無かったのに。
そして、ディアーナからの手紙を読み終えたセイルは並ならぬ決意を秘めた瞳で、『妹』だった少女の名を言葉にした。
「ディアーナ……」
「おまえはダリスと戦争でもはじめる気か!」
と、シオンに指摘されるように、ディアーナからの手紙で蒼白となったセイルは、ディアーナをクラインへ戻すためにあらゆる方策を駆使していた。
そう。
その方策にはクラインへのあからさまな挑発も宣戦布告に近いものもあった。
それくらい、ディアーナの手紙に書かれてあった『クラインに帰りたい』『もう、私にはお兄様しか頼れませんわ……』という文面を額縁通りに読んだ所為であった。
「こんなにもいじらしくも悲嘆にくれて嘆願してきた妹を放っておけというのか!」
「どう読んでも姫さんの手紙はただの夫婦げんかの愚痴だろ!」
そうシオンが再び指摘するように、ディアーナの手紙の内容は蒼白になるような内容ではない、とも言えた。
だが、ディアーナの身を常に案じ、気にかけていたセイリオスには、読み流す事は出来なかった。
「おまえがディアーナの事を気にかけていたのは、ただの気まぐれだったというのか!」
「いい加減にするのは二人でしょ!」
という、メイの強くも短い切り込みに対し、一国の王であるセイリオスとその腹心であるシオンを黙らせる事に成功した。
そして、それを互いに確認すると、メイは強気な口調のまま、セイリオスとシオンの言動にツッコミを入れた。
「陛下のディアーナ贔屓はわかるし、シオンの言い分も真っ当よ。でもね、今はその話をしている場合じゃないでしょ!」
そうメイに言われたセイリオスは、自身では反論が出来ず、周囲を見渡したが、王の間に控えていた臣下達は、メイを支持するかのように無言の同意を返した。
それ故に、セイリオスは自身の言動を少しだけ反省し、反論と言葉を重ねる事を控えた。
それを確認したメイは、あえてセイリオスの真意を確かめるように、静かな声音で問い掛けた。
「で、陛下はダリスと戦争をはじめる気?」
「私はディアーナを助けたいだけだよ」
「じゃあ、ディアーナの真意を確かめるのが先ね。ディアーナが本気で里帰りや出戻りを望むなら、実力行使もしている筈だから」
というメイの言葉は、クラインの現状とディアーナへの推測を、一番的確に把握していると思わせた。
それ故に、セイリオスは否定をする事なく、メイの言葉へ単純に同意した。
「……確かに、ディアーナなら城出くらいは簡単にしそうだな」
「じゃあ、シオンがダリスの王様と密約してキールとシルフィスにダリスヘと行ってもらったから、その成果次第でいいよね?」
そうメイに問われたセイリオスは、ただ頷く事しか出来なかった。
そして、そんなセイリオスの言動と、メイの指摘を黙って見守っていたシオンが再び口を挿んだ。
「……で、俺にはシスコンで暴走している馬鹿のお守をしろって言うのか?」
「シオン以外にそれが出来ると思う?」
「メイにも出来るだろ?」
「アタシには実力行使とツッコミは出来ても、陛下とクラインの両方を制する地位が無いもの」
という、メイの単純かつ明快な応えは、シオンにも指摘も反論も出来なかった。
それ故に、ぼやく様な独り事をメイに聞かせる事しか出来なかった。
「……ほんと、オレは貧乏クジをひいちまったな」
「それも自業自得だし、アタシを選んだのはシオンよ?」
そこまでメイに言われたシオンは、もう沈黙を返す事しか出来なかった。
それ故に、メイは王の間にいる全員に対し、仕切るような問いを掛けた。
「じゃあ、キールとシルフィスが戻ってくるまで、通常の国務を済ませましょ?」
久方ぶりのファンタ更新は過去作となりました。
相変わらずお約束や王道が満載なベタ展開ですが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。