非番の原田が屯所に戻ると、掃き掃除をしていた千鶴に土産として菓子を手渡した。
「有り難うございます、原田さん」
「ああ。それは俺のおすすめの期間限定だから、間違いないぜ?」
「皆さんの分は……良いのですか?」
「ああ。今は千鶴が一人で食べる方が良いだろう?」
そう言った原田はこの場での気配も隠している人物にも聞こえる様に問い返した。
そして、隠れている人物の気配にも気付いていない千鶴はただ原田の気遣いに感謝した。
「お気遣いも有り難うございます」
「じゃあ、俺は仕事があるから、またな」
「はい。お仕事も頑張ってください」
「……ずいぶん暇になったな、土方さん?」
と原田から問われた気配を隠していた人物である土方は何も答えなかった。
そして、それも想定内だった原田は淡々とした口調で土方に問い続けた。
「俺が千鶴に無体を強いると思っているのか?」
「妹だと思っているだけ、だと?」
「ああ。俺は千鶴の幸せを願っているが、土方さんは違うだろ?」
「……」
「だから、俺は邪魔しないが、千鶴を泣かせたら……わかってるよな?」
「……わかってはいる」
そう土方が短くも答えると、原田はただ肩をたたいてからすぐに立ち去った。
そして、肩をたたかれた土方はただ戸惑う想いのままに、ただ千鶴を見続けていた。
今回のタイトルは「おかぼれ(傍惚れ)」の方がイメージに近いのですが、一般的ではないと思い、類語的な「横恋慕」としました。