10 あなたがいるから、この世界は私にとって意味がある

 

 

注意:原作のラストなどのネタバレを多く含んでいます。

ネタバレが苦手な方はご注意ください。

 

 

「マスタング大将」

そう呼ばれたロイは、声が聞こえてきた方へ振り向いた。

ロイが振り向いた先には、軍服ではなく、私服を着ている氷炎がいた。

その姿は、かつては戦場でもあり、イシュヴァール復興の中心地には似合わなかった。

しかし、すぐに氷炎の意図に気付いたロイは、あえてその服装について問わなかった。

「……おまえからそう呼ばれるのはまだ慣れんな」

「……ロイが約束した『イシュヴァール政策』もずいぶん進んだわね」

「そうだな。だが、そんな世間話をしに来たのではないだろう?」

「ええ。ハボック少尉の復帰時期が決まったわ」

という氷炎の答えは、ロイが気付いた意図の一つが正しかった事を確信させた。

氷炎はリハビリ中のハボックを休暇中に見舞ったのだろうと。

そして、その確信と朗報はロイに笑顔をもたらした。

「そうか……また忙しくなりそうだな」

「ただ、約束を果たしつつも階級を上げる努力も怠らなかった結果が出ると良いわね」

「ああ。大総統の地位を得れば、彼女との約束も果たせるからな」

そうロイが嬉しそうな表情で答えたが、約束を聞いた者としては単純に喜べなかった。

ロイと彼女の約束が、単純に互いの幸せを約束している訳では無かったから。

それでも、未来を約束する事が出来ただけで、ロイにとっては幸せなのだろう。

そう思った氷炎は、単純に喜ぶロイへ、一応の忠告を口にした。

「……約束と言うより、あれは脅迫だと思うけど?」

「確かに……だが彼女はあの兄弟の家族だからな」

というロイの答えは、氷炎に答える言葉を失わせるほどに驚かせた。

ただロイが単純に浮かれているだけではない事実に対しても。

そして、単純に喜んでいると思われていた事にも気付いているロイは苦笑った。

「昔、鋼のが520センズの貸しを大総統となり、民主制に移行させるまで返さない、と言ってな」

「……確かに彼女もエルリック兄弟の血を持つ女なのでしょうね。だからこそ、ロイを安心して任せられるわ」

「……私に守らせないつもりか?」

そうロイが氷炎の決意に対して問い返した。

それが想定内であった氷炎は、ロイへ母性に満ちたあたたかな微笑みを返した。

「……私はロイを護る為に生きているんだもの」

「どうして私の周りの女性達は、こうも頑ななのかね?」

「それは彼女にも当てはまる、という意味かしら?」

「……待ちたまえ! 彼女に告げ口する気か!?」

近頃は見なくなったロイの狼狽に対し、氷炎はニッコリという字が見える笑みで答えた。

「口は災いの元と言うし、覆水盆に返らず、とも言うわよ?」

「……本当に軍人を辞めるのか?」

「ええ。ロイを護る為に軍人となったけど、今の世間からロイを護る為には父の仕事を継いだ方が良いと思うから」

氷炎と出会った時から、変わらない決意を聞かされたロイは、軽い口調で問い返した。

「私は彼女以外の女性を妻にする気はないぞ?」

「言ったでしょう? 私はロイを護りたいだけで、その為に手段は選ばないって」

「……」

「私に『生』を与えてくれたのはロイだけで、それ以上のモノはないの」

満足げにそう語る氷炎に対し、ロイも陰りの無い澄んだ微笑みで応えた。

「……では、その『生』の中で幸せを得られる事を願おうか」

「私はじゅうぶん幸せよ、ロイ」

「……ならば、私が言う事も願う事もないな」

「ええ。ロイと彼女の幸せを願っているわ」

「願われなくとも幸せになるさ、私と彼女は」

そうロイが、氷炎の問い掛けに対して、強い決意と意志を見せた。

それを見せられた氷炎は、ロイに対して最後の挨拶を求めるように握手を求めた。

「じゃあ、また会える日まで……さようなら」

「ああ。また会える日を楽しみにしている」

とロイは答えながら、氷炎が求めた握手に力強く応えた。

これが最後とならないように、また握手を交わせる日を強く願う思いを込めて。

 

 

 

 

 

当サイトのオリキャラである氷炎がラストで選ぶ選択の一つが元となった小話です。

ちなみにエルリック兄弟の血を持つ女は、当サイトのオリキャラ『エドの双子の妹』です。

また『脅迫』という言葉が、ロイとエドの双子の妹との恋愛事情を如実にしているかと。

そして、その様な存在を前提とした氷炎が選ぶ選択ともいえるかと思います。

 

 

 

使用お題『護りたいあなたへ捧げる10のお題 (1)』配布元:疾風迅雷