注意:原作(主に14巻)のネタバレを多く含みます。
ネタバレが苦手な方はご注意ください。
ありえない人事を告げられても、ホークアイはロイと別れた場所で待っていた。
そして、その場に居合わせたアームストロング少佐に、ロイは軍の『真実』を告げた。
そして、短くも深い会話をしたロイは再び中央司令部に戻った。
それを想定していた氷炎は、中央司令部にあるロイ達の執務室で待っていた。
ロイも同じ思いだったのか、あえて氷炎にその理由などを問わなかった。
「……氷炎の、おまえが護るモノは何だ?」
そう問われた氷炎は、沈黙と真っ直ぐな視線だけを返した。
それが、氷炎にとって無言の催促である事を熟知するロイは、更に質問を重ねた。
「それに、おまえはヒューズを殺したモノを知っているのか?」
「ホムンクルス達だと思うけど、誰かは知らないし、知らされてもいない」
と答えた氷炎は、常にある冷静さやあたたかさではない、強さだけを強く感じさせた。
その強さの意図と理由に、ロイは気付かなかったが、氷炎の答えは聞き流せなかった。
「興味が無い、と?」
「ええ。マースと約束したわ。護るべき人を、上に押し上げるべき人だけを、考えると」
そう氷炎がこたえた言葉を聞いたロイは、素直に驚きから返す言葉を失った。
氷炎とヒューズの付き合いが、ロイ以上の長さと深さがあると知っていたが故に。
しかし、そんなロイの驚きは氷炎には想定内だった為、ただ自分の想いだけを口にした。
「マースの『仇』を知ったら、私が『氷炎』という名を得てまで護ろうとした人を失うかもしれないから」
という、氷炎の不安と疑念を強く否定するように、ロイも自分の決意を再び言葉にした。
「私は一個人の意志で、大総統の地位をもらい、ヒューズの仇を討つまでだ」
「……そうね。それでこそ『ロイ・マスタング』ね」
「では約束しろ。おまえが護るべきモノは何だ?」
そう、ロイは強い視線と共に氷炎に答えを迫った。
それも想定内だった氷炎は、常にはみせない母性を感じさせる笑みで問い返した。
「ここで女に再確認を求めるなんて、野暮だと思わない?」
「……そうだな。では、またおまえに護ってもらおうか」
「そうね。背中も右腕も……全てが奪われてしまったわね」
と、氷炎は現状を再確認するように、執務室を見渡した。
感傷的ともいえる氷炎に対し、あえてロイは不敵な笑みを見せながら応えた。
「だが、チェックメイトにはまだ早いと思わないか?」
「……私の義務は『ある日』まで焔の錬金術師を生かす事だけ。失った手足の代わりは務まると思うけど?」
そう氷炎が答える事は、ロイの想定内だった。
それ故に、ロイは氷炎の意志を確かめるように、殲滅戦から続く確認を言葉にした。
「では、作戦開始だ、氷炎の」
「了解しました。焔の錬金術師殿」
氷炎は少女の頃に『お父様』や『約束の日』の事をおぼろげに気付きました。
それを代価にして、氷炎はその銘とロイを護る権利と義務を得ました。
使用お題『護りたいあなたへ捧げる10のお題 (1)』配布元:疾風迅雷