「先生」金澤&吉羅VS日野香穂子

吉羅の秘書に声をかけられて理事長室のドアの前に着いた香穂子は、少しだけ出入り口のドアが開いていた為に困惑していた。

何故ならば、理事長室内で吉羅と金澤が香穂子に関する会話をしている事が漏れ聞こえた為にノックのタイミングもわからなかった。

そして、その様に香穂子が戸惑っていても理事長室内の会話は止まらなかった。

「それでは、日野君は今もヴァイオリン一色の学生生活なのですね」

「クリスマスからは艶も出る様になったが、今は音楽よりも色恋の方を優先しているみたいだな。練習はしているが、お相手とはトラブった所為で逃げ回っているらしい」

そう金澤がクリスマスコンサートでの顛末と最近の学園で一番有名な話題を告げた。

それを聞いた吉羅は少しだけ考え込んでから口元だけで微笑んだ。

その笑みから良くない想像しか出来ないと長年の勘で察した事を金澤は吉羅に確認した。

「また日野を巻き込む気か?」

「これからの日野君には音楽に専念が出来る様なサポートも必要だと思いませんか?」

「俺は馬に蹴られたくはないし、そこまで教師が関わる事じゃないだろ」

と金澤は当たり障りのない理由で吉羅の提案、否、お願いを断った。

しかし、理事長としての決定事項を告げているつもりの吉羅は金澤に強く提案した。

「ええ。ですが、先を生きる者として、助言をするのは悪い事ではないでしょう?」

「……わかったよ。本当に日野も大変な奴らにも好かれているな」

そう吉羅の提案を受け入れた、否、受け入れさせられた金澤は悪態をついた。

また、吉羅も金澤の悪態、否、遠回しな気遣いに気付かないふりで答えた。

「私の再建案を撤回させた日野君には、それなりの協力を頼むだけですよ」

「はい、はい。理事長様の命となれば、ただの教師は従うだけだ」

「では、扉の前に居る日野君。先生に仲直りをさせられるのと、自力で乗り越えるかを選びたまえ」

と吉羅に問われた戸外に居た香穂子はあからさまに驚いた。

そして、その様な驚きも察していた金澤はあえて軽い口調で香穂子に声を掛けた。

「日野、俺は無駄な事をするほど暇じゃないから、是非、柚木と二人で乗り越えてくれ」

「……わかりました。では、失礼します」

そう吉羅と金澤に答えた香穂子は見えない二人に対して一礼をしてから去った。

そして、香穂子の足跡も聞こえなくなった頃、金澤はあえて互いが理解している忠告を言葉にした。

「吉羅、その性格を少しはどうにかしないと、夜道が本当に危険だぞ?」

「……ご忠告、有り難うございます、先輩」

「……で、本当に日野をまた何かに巻き込む気か?」

「先生が不安になるような事ではありませんよ。日野君は優秀な広告塔になれると思っていますから」

という吉羅の発言から、香穂子が巻き込まれるだろう騒動を憂慮しながらも、それが現実だと金澤も理解していた。

故に、金澤は香穂子と柚木のトラブルが無事に解決する事を願い、吉羅は理事長としての務めを果たすべく更に準備を進めた。

 

 

 

 

 

最初はこのVSは柚木先輩の予定だったり、コンミス期間と絡める事も考えていました。

ただ、それだと話に広がりすぎる為、冬休み明けから数日の騒動との設定としました。

その為、香穂子嬢の三学期は騒動だらけとなりました(遠い目)