予測不可能なデータ収集

3年レギュラー陣が地位を確定した頃、乾は不二に一人の少女を紹介された。

「乾なら名前は知っていると思うけど、名前から紹介するね、彼女が藤原静華だよ」

そう不二が紹介したのは青学の制服を纏った美少女だった。

紹介される事を事前に知らされていた乾は、データノートをただ開いた。

なので、静華と呼ばれる美少女は容貌に似合わぬ正体不明な笑みを添えて挨拶をした。

「はじめまして、といった方がいいかな?」

「そうだな。だが、俺でなくとも藤原静華の名は有名だろう」

「まあ、僕の親友だからね。それに、悪質な噂もされてるけど」

不機嫌な思いを込めて言葉した不二に対して、乾は冷静に応えた。

「ああ、不二を誘惑してるとか、不二のファンを名乗る女生徒はそう言っているらしいな」

「ははははは。いくら私でも恋人は選ぶぞ」

重苦しくなりかけていた雰囲気を壊す様に、静華は豪快に笑いながら答えた。

それを見た不二はいつもの穏やかな笑みに戻ってから応えた。

「それじゃあ、まるで僕は恋人失格みたいだね」

「それは誤解だぞ。ただ、不二とは男女の関係になりたいと思っていないだけだ」

「だが、俺のデータには恋愛に無関心だとあるが?」

そう乾は、データノートを見ながら静華に問い掛けた。

そして、データ収集されている事実に対して、静華は素直に応えた。

「それは正しいな。だが、それは男女の関係よりも友人を優先する少年の様な価値観を持っているだけだぞ。まだまだ子供でいたい、というだけだ」

そう応える静華に対して、不二はいつもより喜びを感じさせる笑みを返した。

「そういうセリフだけ聞いていると子供とは思えないよね?」

上機嫌な不二に対して、乾は驚きながらも言葉を続けた。

「そうだな。IQはもちろん、精神年齢もかなり高いのだろう?」

「そうだな……乾汁がピーマンとセロリと小松菜とパセリと青紫蘇とレモンなどでできているコトは感想だけで察する事は出来るぞ」

と静華に言われた乾は、驚きからデータノートを落としそうになった。

しかし、静華の異才になれていた不二は平然と言葉を付け加えた。

「あれ? ほうれん草とキャベツも入っているって言ってなかったかい?」

「そうだった。そうだ。蜂蜜と生姜も入っているだろう?」

平然と交わされる天才同士の会話に、乾は白旗を上げるように口を挟んだ。

「……不二、どんな感想を言ったんだ?」

「特に変わったことは言ってないよ。でも、配合は試したけど分からないらしいんだ」

「そうなのだよ。出来ればレシピを教えてもらえないだろうか?」

そう静華は問い掛けた。

その質問の言外に何かがあると思った乾は、単刀直入に問い返した。

「……で、交換条件はなんだ?」

「無害そうに見えたり、味の改良をしたり、という改良データではではどうだい?」

そう静華は、悪代官の様な笑いを添えて問い返した。

その笑みを『面白い』と思った乾はデータノートに書き込みをしながら応えた。

「……いいだろう。レシピの写し書きが出来たら不二に渡しておこう」

「え? 僕を経由してもいいのかい、乾?」

と、不二が意表を突かれた様な答えを問い返した。

不二の意表を乾は面白くは思ったが、答えは淡々としたものだった。

「面白いデータを紹介してもらった礼だ」

「……面白いデータ? 私のデータも取るつもりなのか?」

「データを採取されても構わないから、俺への紹介を不二に頼んだのだろう?」

そう乾が問い返すと、静華は少し困惑した表情で再び問い返した。

「いや、君の事は知っていたから、データを取られるのは構わないんだが……興味深いのかな、私は?」

「そういう答えをする時点で、充分に興味深いよ」

「そうだろうね。僕でも静華の答えは予想できないくらいだからね」

そう二人に断言された静華は、何故か闘志を燃やした。

「そうか。ならば期待へ応えられるように頑張るとするか」

 

 

 

一週間後、乾は不二と共に訪れた静華が差し出した乾汁の改良品を見て問い掛けた。

「……藤原、これはお菓子かな?」

そう問いかける乾に対して、静華は思惑にも気付かずに問い返した。

「乾はマドレーヌをお菓子だとは思わないのか?」

「静華、乾はデータで欲しかったんじゃない?」

ここでようやく、紹介者である不二が乾の思いを代弁した。

しかし、静華はその思いを否定するかのように強く熱弁した。

「それではつまらんだろう。データテニスマンの名に負けぬよう、自分でレシピを会得しなくては!」

という、静華の思い込みに対して、乾は応える事が出来なかった。

『そんな自負を求めないでくれ』

と、乾は目で訴えたが、静華と不二は気付かぬまま、言葉を重ねた。

「相変わらず静華は妙な思い込みをしているね」

「そうか?」

「自覚がないのが静華らしいけど」

この状況を変えて欲しいと、乾は不二を見た。

だが、見られた不二は朗らかに応えなかった。

「とても美味しかったから大丈夫だよ、乾」

「ははははは、不二の味覚は一般的ではないから基準にならんよ」

「それは酷いな、静華」

この場の被害者となるであろう事態から、何とか回避しようと乾は模索した。

しかし、その計算の材料となるデータが静華相手では通用しないと感じていた。

なので、乾はどうする事も出来ずに、ただ沈黙を返す事しか出来なかった。

「……」

「で、食べるのか、諦めるのか、どっちが良いんだい、乾?」

そう静華が本題に戻って来た時、乾は正攻法で応えた。

「……こちらはオリジナルのレシピを渡したのだから、レシピで返してくれないか?」

「それはつまらないと言っているだろ?」

「そうだね。それじゃあ面白くないよね」

妙な思い込みや面白がって被害を拡大しないでくれ、とも乾は思った。

しかし乾のデータでも、この状況を好転させるタイミングも計算もわからなかった。

そんな乾の戸惑いに気づいたのか、静華は譲歩した。

「……じゃあ、試食して材料を一つでも当てたらレシピを渡そう」

「……オリジナルの材料でもいいのか?」

「もちろんだとも。自信作だからじっくり味わってくれ」

そう言われた乾は、不信感を抱いたまま、美味しそうなマドレーヌを食べた。

「……うっ」

「……乾でも倒れるか。不二はやはり天才なんだな」

感心なのかどうかわからない感想を静華は口にした。

それを聞いた不二は、不敵な笑みを浮かべながら静華に問いかけた。

「それって誉めているのかい?」

「貶してはいないぞ」

『だ、誰かこの二人を止めてくれ…』

そう乾は気を失いそうになりながらも思った。

しかし、その思いを拾う神は……この場にはいなかった。

 

 

 

 

 

……えっと、今回は不二の紹介でオリキャラと乾が出会った時の小話です。

予定ではこのオリキャラとの友愛?モノはあと3話の予定ですが……大丈夫ですよね?

とりあえず、皆様の反応は気になりますが、同好の方からの挙手を待っています……