「おい、ロイが本気で少女にプロポーズしたって、本当か?」
そう電話で問い掛けてきたヒューズに対し、氷炎は大きな溜息と共に答えた。
「ええ。でも、ロイがロリコンになった訳ではないみたい」
という氷炎の答えは、ヒューズに一応の安堵を与えた。
女タラシという看板の次がロリコンでは、大総統を目指すものとして問題があり過ぎた。
それ故に、ヒューズはいつもの軍用回線ではなく、氷炎の自宅へ電話をかけていた。
そのような気遣いを見せたヒューズは、更に氷炎の心情を思い、その確認を口にした。
「そうか……大丈夫か?」
「もうダメね。ロイはハイテンションで式場から新居まで調べようと躍起で……ホークアイ少尉と抑えるだけでも精一杯な状況よ」
知らされるロイの行状に対し、ヒューズは答える言葉を失った。
いや、ヒューズの意図とは違う答えだった以上に、ロイの言動が想定外だったからだ。
しかし、確認したかった問い掛けの答えを求め、氷炎に対して更に確認を口にした。
「いや、そうじゃなくて」
「ああ、護衛に関して? でも、彼女との再会は先だから、護衛はまだ選んでいないけど」
「いや、おまえさんはどう思っているんだ?」
「私? ロイが未来のファースト・レディにと選んだ少女よ。ロイ以上に護るわ」
という氷炎の答えは、意図通りかつ想定内の事態を、ヒューズに再確認させた。
それ故に、事態と氷炎の意志を確認するように、ヒューズは慎重に問い返した。
「……本気で言っているのか?」
「ええ。ロイの場合、自分より彼女を護る事に躍起になって、自滅する可能性は高いから」
「いや、俺はそういう心配をしているんじゃないぞ」
そこまで言われても、氷炎はヒューズの意図がわからなかった。
いや、正確に言えば、その意図を確認する理由がわからなかった。
それ故に、氷炎はヒューズの意図を確かめるように直球で問い返した。
「どういう意味?」
「ロイに生涯の伴侶が見つかった。その伴侶となる少女を本気で守れるのか?」
と問われた氷炎は、少しだけ間を置いてから、澄んだ強い意志を感じさせる声で答えた。
「……マース、私は言ったはずよ。私はロイを護りたいだけで、それ以外は望まないって」
「……」
「私が望むものは、ロイが歩む道で必要な時に助け、見守りたいだけ」
そう氷炎が静かに、だが強い決意を込めて答えた。
そう決意する氷炎の強さと清さは、電話先のヒューズにも伝わる程だった。
だからヒューズも静かに答えた。
「……そうか」
「ええ。今更な確認をしないで、マース」
「じゃあ、ロイを精一杯抑えてやってくれ。ロリコンで軍法会議沙汰にならんように」
「ええ。そこまで堕ちないよう、ロイにも自制をしてもらう。実力行使も辞さないわ」
と、氷炎もヒューズと同じように、先程までの雰囲気とは相反する明るい声で答えた。
しかし、その声とは相反する氷炎の宣言に対し、ヒューズは笑って同意した。
「さすがは氷炎の錬金術師殿。ロイの暴走もしっかり止めてやってくれ」
「まかせて。でも、ロイの彼女自慢には付き合ってやってね」
「おう。俺の妻自慢で負かせてやる」
そうヒューズに応えられた氷炎が、その『こたえ』を想像した直後、その表情は曇った。
「……私的には楽しそうな会話だけど、周囲の被害が凄そう」
「お、今日も聞いてくれるか?」
「ごめん、今日はこれからも仕事なの。今はロイのサボりの方が有り難い状況だから」
という氷炎の声から、精神的な疲労を感じたヒューズは話を切り上げるように答えた。
「そうか。悪い時に電話したみたいだな」
「そんなことはない。マースの声を聞けて良かった。遠くないうちに時間をつくる」
「ああ。楽しみにしててくれ」
「ええ。楽しみにしてる」
ロイがプロポーズした少女とは、オリキャラ『エドの双子の妹』です。
略するとエルリック兄弟と出会った時、エドの双子の妹とも出逢った結果、告白を通り越して結婚を肯定させようとします(え?)
しかし、それはロイに焔をつけられたエドと氷炎によって阻止されます。
ですが再会以降、ロイはエドの双子の妹と出逢う度、求婚をするのが日課となる状況です。
使用お題『護りたいあなたへ捧げる10のお題 (1)』配布元:疾風迅雷