曲者と食わせ者

授業が終わり、テニス部の部室へ向かう途中で桃城は静華に出会った。

「あれ、静華先輩?」

「おお、桃か。これから部室かい?」

「そうっすよ。静華先輩もテニス部に?」

「ああ、これを差し入れに行こうと思ってな」

そう言って、静華は持っている大きな袋を掲げた。

「差し入れっすか。有り難うございます!」

「そんなに喜んで貰えるとは嬉しいな」

「静華先輩の手料理は上手いっすからね。大歓迎ですよ」

という、素直な賛辞に対して、静華も素直に喜んだ。

「ははは、おだててもネタは教えんぞ?」

「……ネタ?」

静華の言葉に違和感を覚えた桃城はその思いを込めて問い掛けた。

しかし、静華は桃城の問いをはぐらかすように答えた。

「ネタはネタだ。さあ着いたぞ、桃」

「そ、そうっすね」

不信感を持ったまま、桃城は静華と共に部室に入った。

部室ではレギュラーの面々が着替えたり、準備をしていた。

静華の来訪に気づいたリョーマは準備をしながら問い掛けた。

「静華先輩、俺と試合してくれるんすか?」

「残念ながら試合ではなく差し入れだ。とっておきのカップケーキだからな、体力がついて部活にも精が出せるぞ」

3年のレギュラー陣は静華の料理の腕前が確かだと知っていた。

しかし、静華がまともな動機で差し入れしない事も身をもって知っていた。

なので、大きな袋から取り出された美味しそうなカップケーキを不審げに見ていた。

「……」

沈黙するレギュラー陣とは対照的に、何も知らないリョーマは躊躇いなく手に取った。

「まあまあだね」

「そんな事はないぜ、越前。静華先輩の料理は折り紙つきだぜ?」

そう桃城が言うと、リョーマは手に取ったカップケーキを食べた。

「ふーん、じゃあイタダキマス」

「どうぞ召し上がれ」

「……うっ」

そう言ったと同時にリョーマは倒れた。

そして、リョーマの気絶が予測できていた桃城は恐る恐る静華に訊ねた。

「……やっぱりロシアンルーレットっすね?」

「見抜かれていたか、流石は桃」

と言いながらニヤリと笑う静華に一同は冷や汗を感じていた。

それでも、桃城は何とか静かに問い続けた。

「じゃあ、当たりは今ので終わりっすか?」

「さあ、どうだろうな?」

「……」

と、一人を除いてレギュラー陣は沈黙してしまう。

その中、レギュラー陣の中で唯一、沈黙も冷や汗もない不二が口を開いた。

「ふふふ、そんなに言う程は酷くないよ。汁入りも僕は好きだよ」

「そうだろう? では私も行動で応えよう」

と言いながら、静華と不二はカップケーキを食べた。

すると静華が一口食べたカップケーキを菊丸は横取りした。

「へへへ、これなら安全だよね~」

「あ、菊丸先輩!」

菊丸の意図に気づいた桃城は止めるように名前を叫んだ。

しかし、桃城の気遣いもむなしく、カップケーキを食べた菊丸は倒れた。

「うっ……」

菊丸の行動を予測していた静華は朗らかに笑いながら菊丸に言葉を手向けた。

「ははは、当たりが一個だとは言っていないぞ?」

「汁入りも意外な味わいで美味しいよ、静華」

「そういってくれると嬉しいな」

そう、静華と不二は朗らかに笑いながら言葉を交わした。

二人の被害者とそれに怯えるレギュラー陣を前にして。

「……」

「……辞退するって手段はないっすか、静華先輩?」

再び、桃城が勇気を出して静華に問い掛ける。

すると静華はニヤリと笑いながら答えようとした。

「辞退は構わんが、そうした者には……」

ここにきて、静華の保護者、ではなく幼馴染である大石が叱責しようとした。

「静華!」

「……体力向上は嘘じゃないぞ……」

大石の叱責には勝てない静華は、恐る恐る正当性を口にした。

しかし、大石はそんな弱気な答えに耳を傾けようとはしなかった。

「だが!」

「僕もそうだと思うよ。桃、越前と英二を起こしてくれる?」

そう口を挟んだ不二は、怯えが少ない桃城に確認を求めた。

そう言われた桃城は恐る恐るリョーマと菊丸を起こした。

「だいじょぶっすか、菊丸先輩に越前?」

「……うーん」

「……あれ?」

違和感がある菊丸と越前に不二は朗らかにたずねた。

「何か体が軽くないかい、英二に越前?」

「あれー?」

「何か体が軽いっすね」

二人の反応はその場の空気を驚きに変えた。

「……俺が渡したデータではその効果はありえないんだが、藤原?」

そう言って、オリジナルレシピを提供した乾は静華に問い掛けた。

しかし、静華はニヤリと笑いながら問い返した。

「それは企業秘密だ。まあ、自分の舌で確認してみたらどうだ?」

と問い返された乾は、勇気を振り絞ってカップケーキを食べた。

「……うっ」

「ふむ、乾でもこの味には負けるか。いいデータが取れたよ、乾」

「む、無念……」

「さあ、部活が始まるまでの時間は残り少ないぞ?」

更に被害を広げようとする静華に対して、それを止める手段を持たない面々は沈黙した。

そして、復活した被害者達は早々と立ち去ろうとした。

「じゃあ、お先にコートへ行きます」

「あ、オレも、オレも」

「じゃあ、次は……」

そう静華が言いながら不敵に微笑んだ時、部室のドアが乱暴に開かれた。

「こりゃあ! 何時まで部室でたむろしておるんじゃ!!」

と言いながら、部室に入って来たのはテニス部の顧問である竜崎だった。

部室内の異様な空気を不審に思った竜崎の目に静華の持ってきたカップケーキが入った。

「何だこれは……」

「あ、それは!」

口にするのかもしれない、と慌てたレギュラー陣に対して、竜崎は再び叱責した。

「美味しい差し入れが食べたければ部活の後にせい! コートに集まれ!!」

「はいっ!」

と、レギュラー陣は即座に応えて部室を後にした。

「う~ん、センセイの邪魔が入るのは想定外だな」

と言いながら、竜崎の登場は予測していなかった静華は次なる手を考えた。

しかし、大石は黙っていなかった。

「今夜、夕食は一緒だからな、静華」

そう言われた静華は蛇に睨まれた蛙のように怯え、素直にカップケーキを仕舞った。

「うっ、わ、わかった。これは先に持って帰る」

「物分りが良くて嬉しいよ、静華」

と言いながら、にっこりと微笑む大石に裏を感じた静華は更に怯えを感じていた。

 

 

 

 

 

……恋愛絡みよりも友愛の方が書きやすいってアリでしょうか?

いえ、友愛というよりもVSの方が近いですから……(遠い目)

ただ、オリキャラと桃城の会話は多いですけど、大石との会話の方が濃密かつ重視だと思えるのは、気のせいだと思いたいです。