5 何を犠牲にしても厭わない

イシュヴァール殲滅戦が開始されてから一ヶ月。

国家錬金術師としてイシュヴァール人を粛清し続けたロイの瞳は変化していた。

そんな自覚をロイも感じていた頃、更に追い打ちをかけるような再会があった。

「……『氷炎の錬金術師』か」

「はい。先日にその銘を拝命しました」

そう答えた氷炎は、同じ士官学校で学び、「美しい未来」を語り合ったロイの親友だった。

しかも、ロイが納得できない惨状で、自分の手をあえて汚す行為が理解できなかった。

だが、そんな氷炎の決意をロイは変えられない事にも気付き、あえて無視をした。

「地位も同じなのか?」

「はい。ですが、私は焔の錬金術師殿の護衛任務を拝命しています」

「護衛?」

「焔の錬金術師殿の戦闘能力は単独での遊撃が効果的だと上層部は判断しました」

と言われたロイは、氷炎の決意と上層部の意図に疑念を感じた。

しかし、ロイはその疑念を言葉にする事が出来ず、氷炎もあえて言葉を求めなかった。

「しかし、それだけの能力を有する焔の錬金術師殿に単独行動をさせるのは危険だとも」

「だから女に護られろ、と?」

「確かに私は女です。ですが、『氷炎』という二つ名に性別は関係ありません」

そう氷炎に強く言い返されたロイは、懐かしくなった士官学校時代を思い出した。

「……おまえの防御に関する錬金術と体術が、俺より優れているのはわかる。だが、おまえはなぜ国家錬金術師になってまで、この殲滅戦に参加する?」

「……」

「私が上官ではないから答えないつもりか?」

と、ロイに強く問い続けられた氷炎は、護衛としてではなく、親友として応えた。

「……ロイを護るのは私の役目だと言ったのは誰?」

「……ここは士官学校の演習場ではない。無差別な殺戮が行われている戦場だ」

そういうロイは、抱いていた理想が打ち壊されていく戦場に、氷炎がいる事が嫌だった。

それ程、ロイはこの殲滅戦に、軍人として戦う理由に、『こたえ』を見つけられなかった。

しかし、その様に迷い悩むロイとは対照的に、氷炎は言葉少なくも強い決意を見せた。

「ええ。だからこそ、私がロイを護る」

「……俺に護られる資格などない」

というロイの素直な吐露は、氷炎にあたたかな微笑みを浮かべさせた。

その笑みに母性を感じたロイは、久しく途絶えていた人らしい感情と眩しさを感じた。

そんなロイの変化を、久方ぶりに間近で見た氷炎は穏やかに、だが冷静な問いを告げた。

「なら、何故ロイは焔の錬金術を使ってまで、先陣で戦い続けているの?」

「……」

「私にもロイの『こたえ』はわからない。でも、ロイが『こたえ』を見つけるまで護る」

そう氷炎に言い切られた、いや、思いを聞かされたロイも冷静に意思を再確認した。

「それがおまえの決意か?」

「ええ。私は私の意志でロイを護り、ロイをサポートし続ける。この命が尽きるまで」

と、氷炎はロイに対して自分の決意と意志を言葉にした。

それ故に、ロイも氷炎の決意を受け入れた。

「……次の作戦は3時間後だ」

「了解しました。焔の錬金術師殿」

「ああ。頼んだぞ、氷炎の」

 

 

 

 

 

今回のSS連載で氷炎の錬金術師の名前が明記されないのは故意です。

また、最後までお付き合い頂ければ、氷炎が『軍人』ではないと気付いて頂けるかと。

ただ、一人の人を護りたいだけで、その為の手段を選ばなかったのだと。

ある意味、軍人としては覚悟も資格も不足どころか失格かもしれません。

ですが、人としては強い意志と覚悟を持っている女性だと思っています。

なので、少しでもそれが読んでくださる方に伝われば、と思っています。

 

 

 

使用お題『護りたいあなたへ捧げる10のお題 (1)』配布元:疾風迅雷