4 大切なものはただひとりだけ

後にマスタング組と呼ばれる面々が東方司令部に集った頃、ロイは彼らを悩ませていた。

それは、ロイが持つ野望故ではなく、若い身の出世を妬む上官たちの嫌がらせでもない。

ロイが日常の業務中にサボり、抜け出した執務室へ引きずり戻さなくてはならない事だ。

しかし、日常的な行為であったが故に、男性陣は日々、捜索の意欲を失っていた。

「マスタング中佐ぁ~。今日も早めに出頭した方が良いですよぉ~」

そう叫ぶハボックは、常に感じる芒洋とした雰囲気そのままに、穏やかな口調だった。

それを聞いたファルマンは、自身の知識を用いて的確な指摘で問いかけた。

「ハボック准尉、僭越ながら『出頭』する程の罪を中佐は犯しておられませんが?」

「オレはハボックに一票だな。あの二人を敵にするくらいなら、『出頭』した方が良い」

というブレタは、ハボックよりもやる気を感じさせないように欠伸をしていた。

それに同意するフュリーも、口調と態度は真面目だったが、意欲は感じられなかった。

「僕もです。サボりとはいえ、あのお2人が本気になる前に戻られた方が良いですよね」

ある意味、ロイのサボり並に問題のある会話を聞いたホークアイは素直に上官へ尋ねた。

「少佐、ここで怒られても問題が無いかと」

「……でも、怒るべき行動を起こしたのはロイで、彼らは違うわ」

と氷炎は、ロイと男性陣の言動に怒りを感じていたホークアイを抑えるように答えた。

そして、その冷静な判断はホークアイにも伝わり、状況を的確に再把握した。

「そうですね。確かに時間を無駄に出来る日ではありませんね、今日も」

「とりあえず、今日中の書類は片付けさせたけど、待機も大切だわ」

「はい。今日だけでもイーストシティ内で事件が続発しています。事後処理が終わったとはいえ、危険な情報もあります」

そうホークアイが、状況を的確に告げるのを聞いた男性陣は、急に背筋を伸ばした。

そして、氷炎も戦闘態勢を整えるように、周囲の空気を凍らせるような雰囲気を纏った。

「そうね。ロイがサボりたいのもわかるけど、執務室で待機してもらわないと」

「では、捜査網を広げますか?」

「ええ。私はホークアイ少尉と組むから、ハボック准尉達も2組に分かれて探しましょう」

「了解しました」

と答えたホークアイは拳銃の安全装置を外した。

その音と氷炎の命令を聞いた男性陣は、先程までの意欲を感じさせない態度を改めた。

「「「「り、了解しました」」」」

 

 

 

ホークアイと共に、サボったロイを探す氷炎は、ふと苦笑いと共に確認を口にした。

「それにしても、私と貴女もずいぶん危険視されているのね」

氷炎以外の存在がなければ答えない類の問い掛けだったが、ホークアイはすぐに答えた。

「中佐がサボられなければ、執務室などで銃を発砲する事態にはならないのですが」

「そうね。私も人を傷つけるのは好きではないから。例えそれが欺瞞であっても」

そう氷炎が、二人だけの時にする軽口を口にした為、ホークアイも素直に問いかけた。

「……以前から伺いたい事があったのですがよろしいですか?」

「何?」

「少佐の錬金術ならば、銃の様な遠距離攻撃も可能ではありませんか?」

というホークアイの問い掛けは、氷炎に一瞬の戸惑いと驚きを与えた。

答える言葉が無かったのではなく、そう問われた意図が氷炎に理解が出来なかったから。

そのような氷炎の戸惑いに気付きながらも、ホークアイは問う事を止めなかった。

「体術を極め、あえて己の手を使って人を殺す事を選んだのは何故ですか?」

「……私に合った護身術であり、手段だった、というだけ」

そう言葉少なくも、強い意志と決意を感じさせる口調で、氷炎はそう言い切った。

そして、そのような氷炎の『こたえ』は、ホークアイにとって予想通りだった。

だが、予想通りであったが故に、ホークアイは答える言葉がすぐに浮かばなかった。

そんなホークアイに対し、氷炎は小さな笑みを添えて応えた。

「私に貴女の様な銃の才があれば、違った錬金術を身につけたかもしれないけど」

「……やはり、『氷炎』の名は伊達ではないのですね」

と応えたホークアイの言葉は、氷炎に再び戸惑いを与えた。

ホークアイの言葉が額面通りの誉め言葉とは思えず、違う意図が明確だと思ったから。

だからホークアイは氷炎の『こたえ』を聞かずに素直な思いを吐露した。

「私に体術の才があっても、銃以外では実行も出来そうにありませんから」

「そう? でも、そこまで銃に思い込める事も一種の才能だと思うけど」

そう氷炎に告げられたホークアイは一瞬だけ戸惑ってから確認を求めた。

「……私が銃を選んだ理由は、中佐から聞いたのですか?」

「ロイは貴女との関係を口にしないわ。でも、私は東方一と呼ばれる商家の一人娘よ?」

という軽い口調で、氷炎はホークアイに問い返した。

だが、そういう氷炎の視線に秘められた重さに気付いたホークアイは短く謝罪した。

「……そうでしたね。失礼しました」

「私に対してならば無用で、こちらが謝罪するべきだわ」

「いいえ。少佐にならば知っておいて頂きたいです。同じ『道』を歩む者として」

そう答える生真面目なホークアイに対し、氷炎は苦笑いを添えて答えた。

「私は貴女の様に万人の幸福を願える程の器はないわ。ロイ一人が精一杯だから」

「ですが、中佐が目指されるものには同意されているのではありませんか?」

「……私が護りたいのはロイで、ロイが実行しようとしている事を止める気が無いだけ」

「そうですか……」

と、ホークアイが続きを口にしようとした時、探していたロイの気配を感じた。

それは氷炎も同じだったらしく、無言の視線でホークアイに指示をした。

その視線に無言で頷いたホークアイは、氷炎の意図通りに気配を消して身を隠した。

「ロイが近いわね」

「はい。では何時ものように」

「ええ。先制はお願い」

「了解しました」

 

 

 

 

 

氷炎の実家は外国との取引もある設定となっている為、独自の情報網も持っています。

もちろん、外国とのコネもありしますが、シンの王家と交流があるかは今も考慮中です。

 

 

使用お題『護りたいあなたへ捧げる10のお題 (1)』配布元:疾風迅雷