「ごめん、知盛」
そう望美は知盛が目覚めた時に告げた為、知盛は望美が策を用いたと察した。
故に、知盛も望美に対して重衡を装う事を選んだ。
「貴女は十六夜の君ではありませんか。なぜ私はこのような部屋に居るのでしょうか?」
「え……知盛、だよね?」
「いいえ、私は重衡です。兄上と間違われたのですか?」
という知盛の言動を誤解したまま、望美は真摯に答える事で謝罪としようとした。
「……ごめんなさい、重衡さん。私、知盛にどうしても言葉で告白をして欲しかったから、白龍に頼んで告白しないと出られない部屋に閉じ籠る事で言わせようと思ったんです」
「そうですが……ですが、十六夜の君。私ならば十六夜の君が望むだけ、いえ、望む以上の愛を告げますよ?」
そういう重衡を装う知盛に対し、望美は策を用いたとは思えぬ程の清廉な態度で答えた。
「私が欲しいのは知盛で、重衡さんは家族だとしか思えない」
「……そうですか。では、この部屋に閉じ込められた代価として、一度だけ貴女を望んでもよろしいですか?」
「駄目です。今、重衡さんを受け入れたら、あなたも裏切る事になるから」
「くっ……わかってるじゃないか。なら、言葉なんて不要だって、知っているだろう?」
という知盛が重衡を装う事をやめた為、望美は瞳を大きく見開きながら状況を確認した。
「知盛? じゃあ、さっきまでは重衡さんの真似をしてたの?」
「重衡から強引に頼まれた事も有ったから、な」
そういう知盛の答えに望美は不審に思ったが、重衡の性格も深く知っており、能力的には問題もないだろうとも思ったが故に納得した。
また、望美が一人で納得している様を眺めていた知盛は口元に笑みを見せながら告げた。
「だが、今宵の様に楽しかったのは初めてだ。だから礼をやろう。愛してる」
「え……も、もう一度だけ言って?」
「扉が出来たのだから良いだろう? 今夜は楽しめそうだな」
という知盛は気だるい様子で望美に答えながらもまっすぐに出口へ向かったが、想定を超える事態にただ戸惑う望美に対して、知盛は少しだけ楽しげに試す様な提案を言葉にした。
「今夜は重衡の真似事で抱いてやろうか? それとも有川の真似事の方が良いか?」
「知盛!」
そう望美は叫びながら出口に向かう知盛の背を追った。
故に、知盛は少しだけ望美に視線を向けると強引に互いの距離をなくす様に抱きしめた。
知盛は性格的に重衡さんの真似はしないとは思います。
ですが、能力的には出来るだろうし、重衡さんから『強引に頼まれる』とアリかな、と思っています。