End dream

あの方が「退屈だ」と仰っていたあの頃。

『わたくし』にとっては今も長い時間を生きる事が出来る幸せで夢のような昔話。

そう言うとあの人は含みがある笑みを見せ、あの方は苛々とした表情となるでしょう。

でも、『わたくし』にはこれ以上ない楽しい思い出。

そして、それだけを支えに生きられる女としての性を、私は嬉しいと思う。

例え、その昔話の結末があのようなオワリだったとしても……

 

 

 

あの方の退屈が終わりを告げたのはひとつの出逢いだったのかもしれない……

 

 

 

「……『太陽みたい』か。凄ぇ口説き文句じゅねぇか? ですって!」

そう天帝の娘である静華が叫ぶと、観世音菩薩はニヤニヤと笑いながら答えた。

「何を興奮してるんだよ、お前らしくも無い」

「菩薩、金蟬童子様は御旗にも相応しい方だって、わたくしが先に主張していてよ?」

「実の父親にも敬意を持ってない奴がよく言うねぇ」

という観世音菩薩に対し、静華は誰もが平伏したくなる気品を損なう様な舌打ちをしてから唾棄する様に答えた。

「あの人は哪吒のおもちゃになるくらいしか能がなくてよ」

「天帝にそこまで言えるのは哪吒とお前だけだな」

「あら、悟空も加えてあげますわ」

そう静華が答えた為、観世音菩薩は情報の早さに驚いた。

金蟬童子が悟空にその名を付けた事は観世音菩薩もつい最近に知った事だったから。

だが、静華の金蟬童子への思いを知るが故に矛盾だけを指摘した。

「ライバル視をしてんじゃねぇのか?」

「悟空は可愛いですから、お稚児さんでもわたくし的にはOKですわ」

「……ほんと、お前は変わり者だな」

と観世音菩薩が呆れながらも口元は笑っていた為、静華も満面の笑みで応えた。

「あら、それを言うなら、変わり者とわかって付き合っている菩薩もでしてよ?」

 

 

 

静華はプライベートの時間をつくっては『人生の師匠』と称して様々な知識を教えてもらったり議論をしたりしている天蓬元帥との雑談で金蝉童子が話題となった。

「……『御旗』ですか。確かに天帝より魅せられる方ですね、金蟬は」

そう天蓬元帥は静華が金蟬童子は御旗にふさわしいという発言を否定しなかった。

そして、その様な天蓬元帥の言葉が嬉しかった静華は、自分を誉められた以上の喜びを隠そうとしなかった。

「当然でしてよ、天蓬?」

「ですが、金蟬は『天帝』には相応しくないでしょう」

「だからそこ、わたくし個人がそうお慕いしているだけですわ」

という静華の応えは隙も無い信仰に満ちた思いだと思った為、あえて俗な確認で真意を探ろうとした。

「でも、金蟬に抱かれたいとか、想って欲しいと、本当に思わないのですか?」

「あの方が望まれるなら、望まれるままに全てを差し出してよ?」

「……」

「だけど、わたくしからあの方に望む事は無いですわ」

そう静華が答えると、天蓬元帥は真摯な想いへの邪推を心の中で詫びた。

そして、静華の金蟬童子への想いが正しく成就する事を願った。

「そこまで想われる金蟬が羨ましいですね」

「うふふ、嫉妬しても無駄ですわよ?」

という静華の嫉妬がどの様な意味かを天蓬元帥は理解しきれなかった。

それでも、さらに静華への好意、否、敬意を深めた天蓬元帥は違う話題も提供した。

 

 

 

「わたくしに内緒で、『隠し子』をつくるなんて水臭いですわ」

そう静華が嫉妬したように乙女らしい拗ねた表情を見せた為、捲簾大将は剣技の指導をしてる状況、否、剣を交えている時にする話題かと思った。

だが、静華にその様な指摘をしても無駄だと知るが故に、捲簾大将は状況を把握する事を選んだ。

「姐さん、悟空の正体を知ってるんだろ?」

「ええ『金蟬童子のお稚児さん』でしょ?」

という静華の問い返しに対し、捲簾大将は本人から堅苦しい呼び方は嫌だと言われてからの呼称のまま、天蓬元帥も感じていた疑念を直球で問うた。

「……姐さん、本当に金蟬の事、好きなのか?」

「ええ、あの方の為ならいつでも身も心も差し出してよ?」

そう静華がニヤリと笑ってから隙を突く様な激しい剣戟を繰り出した。

その剣戟をギリギリで捌いた捲簾大将も隙を突く様な一撃を返してから問い返した。

「その言い方、愛の告白って感じじゃねぇぜ?」

「……相変わらず鋭いですわね、捲簾。でも、嘘を言ってはいませんわ」

と答えた静華は剣の教授時間が終わる事を告げる者の足音に気付き、あえて激しい剣戟を求める様に捲簾大将を攻めたてた。

そして、同じ様に気配を察した捲簾大将は静華の求めに応じて怪我をしてもおかしくない程度の反撃をした。

 

 

 

静華は悟空が散歩している時に出会いを作為した。

また、その様な静華の作為に気付きながらも好意も察した悟空は哪吒と親しいと告げた。

故に、静華は天帝の娘というカードを利用して悟空と哪吒の再会も作為しようとした。

「なあ、なあ、本当に哪吒と会えるの?」

「ええ。わたくしは天帝の娘ですもの。簡単ですわ」

そう静華がおどけた様子で自身の地位の高さと権力を誇示すると、悟空は恐れる事もへつらう事もなく、ただ静華の身の上を確認した。

「……姉ちゃんって実はすげぇ偉い人なの?」

「……いいえ『名前』が凄いだけですわね」

「でも、その名前が使える姉ちゃんだって、すげぇと思うけど?」

という悟空が静華の応えにそう問い返した為、静華は感激した様に悟空を抱き締めた。

「本当に悟空は頭がいい子ね。わたくしの子にならない?」

「俺、姉ちゃんも好きだけど……」

そう悟空が凄く申し訳なさそうに答えた為、静華は抱き締めていた腕を緩めてから互いの顔を近づけた。

驚いた悟空が言葉を失うと静華は作為を感じさせる綺麗な笑みで提案をした。

「なら、わたくしと金蟬童子様を『親』にしても良い?」

「へ? そんなコト出来んの??」

「悟空が頼めば……って、いけない。そろそろ静かにね、悟空」

「あ、人が近いから?」

「ええ。哪吒はある意味監禁されているから、仕方がないけど」

という静華の言葉の意味も理解した悟空に対し、静華は悟空をなでながら優しく諭した。

「……悟空は気も優しい良い子ね。でも、貴方みたいな友達がいれば『幸せ』なはずよ」

「ほんとか?」

「ええ、『ほんと』よ」

 

 

 

今日も今日とて、天帝の娘である静華は少ないプライベートの時間を作っては金蟬童子のもとを訪れていた。

そして、書類を捌いている金蟬童子の手伝いをしながら静華は雑談も仕掛けていた。

「わたくし、感動していますの」

「……人が苦労している事を楽しむとは、イイ趣味だな」

そう金蟬童子はあからさまに大きなため息を吐いてから黙々と書類を捌いていた。

故に、金蟬童子に対するあからさまな好意を隠す事なく、静華は満面の笑みで答えた。

「お仕事の手伝いを申し出る者に対して酷い言い草ですわ」

「天帝の娘が手伝う必要も理由もない」

「そうですわね。ですが、書類整理も完璧に手伝っていますでしょう?」

という静華の問い返しに対し、金蟬童子はあえて話題を変える事で退室させようとした。

「……悟空から何を聞いた?」

「寝食を共にしている悟空よりも、金蟬童子様の事を見続けてきたわたくしの方が熟知していますわ」

そう静華が握り拳を作りながら力説してきた為、金蟬童子は身分とそれにふさわしい言動をすべきだと指摘した。

「……天帝の娘なら、それなりに言葉も慎めた方がいい」

「金蟬童子様と仲が深まるなら、どのような噂にも耐えてみせますわ!」

という静華の応え、否、異論を許さない主張が変わらぬ為、金蟬童子は以前から思っていた疑念を正直に問うた。

「……俺自身を必要としていないのに?」

「……わたくしは自身の思いを偽った事はありませんけど?」

「なら、ここで服を脱げと言っても応えるのか?」

そう金蟬童子が問い返すと、静華はためらいも、恥じらいもせず、淡々とした表情で服を脱ごうとした。

故に、金蟬童子は慌てて静華が服を脱ごうとしている事を止めた。

「あら、金蟬様は媚びた女の方がお好みですか?」

「……疑った事は詫びる。だが、なぜ俺などに執着をする?」

「金蟬童子様がわたくしにとっての御旗だから、ですわ」

という静華の答えは、金蟬童子には理解する事も出来なかった。

否、金蟬童子には日常が退屈な様に、自身にも価値を見出す事が出来なかったから。

それ故に、静華は金蟬童子を慕う自身の思いを正直に告げた。

「金蟬童子様がどのように自身を貶めても、わたくしの思いは変わりません。ですから、金蟬童子様が望まれる事があるなら、どのような手段を講じてでも応えますわ」

「……なら、関わるな」

そう金蟬童子が静華に宣告すると、予想していた静華はにっこりと笑いながら拒絶した。

「そうですか。でも、悟空はいつでも来て欲しいと言ってますから、また来ます」

「……俺はおまえと夫婦になる気もない」

「それも残念ですわ。でも、残念が過ぎて、悟空に愚痴るかもしれません」

という静華の答え、否、主張を改めされられないと察した金蝉童子は言葉を失った。

そして、金蟬童子を慕うが故に来訪は止める気がない静華は自身のタイミングで退室の挨拶をした。

「では、また来ますわ、金蟬様」

「悟空に甘えるな」

「それはお互い様ですわ」

 

 

 

 

 

今回と次回は天界編の前編と後編になるかと。

そして、前編と後編の長さは……当方の都合により、極端になっています(遠い目)

 

また、今回のタイトルの意訳は「末期の夢」です。

そして、当サイトのオリキャラである静華にとっての「幸せな昔話」です。

 

あと、この「サイカイ」シリーズでは、あえて静華が金蟬童子を御旗だと思う理由や玄奘三蔵のモノだと想う理由は書いていません。

もともと名前変換小説として書いていたことが理由ですが……とりあえず感想等の反響次第、でしょうか?