3 側にいることを許してくれますか

「おい、おまえさん、また入院騒動を起こしたんだって?」

と、電話で家族自慢を聞かせていたヒューズが、氷炎との会話の合間に問い掛けた。

そう問われた氷炎は、浮かべていた笑みを苦笑いに変えてからヒューズに答えた。

「相変わらずの情報収集能力ね、マース」

「今回の情報源はロイだ。俺にも、おまえを叱らせたいらしいな」

「……マースにも迷惑を掛けたようね。ごめんなさい」

そう氷炎に応えられたヒューズは、あからさまに驚きながら問い返した。

「おいおい、重傷だとは聞いていたが、そんなに気落ちする程の怪我なのか?」

「ずいぶんな言い草ね。私だって人間よ?」

「だが、おまえは『氷炎の錬金術師』だ。その二つ名を持つ者は自分くらい守れんとな」

というヒューズの口調は、いつものように軽かった。

しかし、ヒューズの軽さに秘められた重さに気付き、ただ素直な思いを吐露した。

「私が護りたいのはロイだけで、二つ名は関係ない」

「だが、氷炎の二つ名はおまえさんだけのものじゃない。俺達の大きな防壁でもある」

「そんなに過剰な期待を持たれても……二つ名に負けてしまうわ」

そう氷炎が応えたように、『氷炎』の二つ名には『防壁』とは対極の意図が含まれていた。

それは氷炎と大総統だけが知る、ヒューズも知らない事だった。

それ故に、氷炎はヒューズの言葉を軽い口調で否定した。

そして、氷炎が隠している『意図』に気付かないヒューズは、軽い口調を変えなかった。

「本当にどうしたんだ、おまえらしくない言葉のオンパレードだな」

「言ったでしょう、私も人間よ。人間兵器と呼ばれる国家錬金術師でもね」

「じゃあ、ロイの護りを他人に任せるのか?」

そう、ヒューズに図星をさされた氷炎は、返す言葉を失った。

氷炎と大総統の過去を知らなくとも、氷炎の言動から見抜ける簡単な思いだったが故に。

そして、それ故に、ヒューズはあえて氷炎の図星をさした。

氷炎の決意とロイの思いを知るが故に。

互いの言動を縛りつけるように。

「おまえには選べない選択だろ。その為だけに軍人となり、国家資格を取ったんだからな」

「……私はロイの側にいても良いのかしら?」

氷炎が再び素直な思い、いや、微かな希望という名の望みを、静かに吐露した。

「……それはロイが決める事だな。でも、おまえさんからは聞けない『願い』だろうが」

と、ヒューズに断言された氷炎は、返す言葉を失った。

いや、氷炎には返す事が出来る言葉が無かった。

それでも、いや、その事実を知るが故に、ヒューズは軽い口調で問い続けた。

「ま、でもロイから叱責されても、部下を辞めろとは言われていないんだろ?」

「……」

「ロイも馬鹿じゃないし、野望もある。だから不必要な人間を側には置かないさ」

という、ヒューズの口調とは相反する強さに気付いていた氷炎は静かに微笑んだ。

そして、そんな思いを包み込むようなヒューズらしい優しさへ素直な感謝を口にした。

「……ありがとう。今度中央に行った時、とっておきのお酒とお菓子を持って行く」

「それはこっちのセリフだ。おまえが選ぶものはエリシアちゃんが喜ぶ物ばかりだからな」

「そういえば、グレイシアさんとの記念日が今日だとか言っていたわね?」

そう氷炎が、会話の矛先を変える様にヒューズへ確認をした。

すると、ヒューズは今までの会話の重さを感じさせない口調で応えた。

「おお、さすがは氷炎の錬金術師殿だ。聞き逃せないビックな記念日なんだぜ、今日は」

「あら、それは初耳ね」

と応える氷炎は、笑顔でヒューズの家族自慢の続きを求めた。

これ程ストレートに家族自慢を好む言葉を向けられる事が少ないヒューズは喜んだ。

いや、氷炎以外にそう言われないヒューズは、数少ない貴重な機会を逃さなかった。

「いや~、今日は特別なんだよ」

そういうヒューズの家族自慢を聞くのが好きな氷炎は、ただ浮かべた笑みを更に深めた。

 

 

 

 

 

氷炎はヒューズ中佐の家族自慢を聞くのが好きです。

それはイシュヴァール殲滅戦前後から続く、ヒューズ中佐との日課かもしれません。

ただ、その為にロイからその好みを厭きられる事もありますが、氷炎は変わりません。

ちなみに、私もヒューズ中佐の家族自慢は大好きです!

 

 

 

使用お題『護りたいあなたへ捧げる10のお題 (1)』配布元:疾風迅雷