「おい、おまえさん、また入院騒動を起こしたんだって?」
と、電話で家族自慢を聞かせていたヒューズが、氷炎との会話の合間に問い掛けた。
そう問われた氷炎は、浮かべていた笑みを苦笑いに変えてからヒューズに答えた。
「相変わらずの情報収集能力ね、マース」
「今回の情報源はロイだ。俺にも、おまえを叱らせたいらしいな」
「……マースにも迷惑を掛けたようね。ごめんなさい」
そう氷炎に応えられたヒューズは、あからさまに驚きながら問い返した。
「おいおい、重傷だとは聞いていたが、そんなに気落ちする程の怪我なのか?」
「ずいぶんな言い草ね。私だって人間よ?」
「だが、おまえは『氷炎の錬金術師』だ。その二つ名を持つ者は自分くらい守れんとな」
というヒューズの口調は、いつものように軽かった。
しかし、ヒューズの軽さに秘められた重さに気付き、ただ素直な思いを吐露した。
「私が護りたいのはロイだけで、二つ名は関係ない」
「だが、氷炎の二つ名はおまえさんだけのものじゃない。俺達の大きな防壁でもある」
「そんなに過剰な期待を持たれても……二つ名に負けてしまうわ」
そう氷炎が応えたように、『氷炎』の二つ名には『防壁』とは対極の意図が含まれていた。
それは氷炎と大総統だけが知る、ヒューズも知らない事だった。
それ故に、氷炎はヒューズの言葉を軽い口調で否定した。
そして、氷炎が隠している『意図』に気付かないヒューズは、軽い口調を変えなかった。
「本当にどうしたんだ、おまえらしくない言葉のオンパレードだな」
「言ったでしょう、私も人間よ。人間兵器と呼ばれる国家錬金術師でもね」
「じゃあ、ロイの護りを他人に任せるのか?」
そう、ヒューズに図星をさされた氷炎は、返す言葉を失った。
氷炎と大総統の過去を知らなくとも、氷炎の言動から見抜ける簡単な思いだったが故に。
そして、それ故に、ヒューズはあえて氷炎の図星をさした。
氷炎の決意とロイの思いを知るが故に。
互いの言動を縛りつけるように。
「おまえには選べない選択だろ。その為だけに軍人となり、国家資格を取ったんだからな」
「……私はロイの側にいても良いのかしら?」
氷炎が再び素直な思い、いや、微かな希望という名の望みを、静かに吐露した。
「……それはロイが決める事だな。でも、おまえさんからは聞けない『願い』だろうが」
と、ヒューズに断言された氷炎は、返す言葉を失った。
いや、氷炎には返す事が出来る言葉が無かった。
それでも、いや、その事実を知るが故に、ヒューズは軽い口調で問い続けた。
「ま、でもロイから叱責されても、部下を辞めろとは言われていないんだろ?」
「……」
「ロイも馬鹿じゃないし、野望もある。だから不必要な人間を側には置かないさ」
という、ヒューズの口調とは相反する強さに気付いていた氷炎は静かに微笑んだ。
そして、そんな思いを包み込むようなヒューズらしい優しさへ素直な感謝を口にした。
「……ありがとう。今度中央に行った時、とっておきのお酒とお菓子を持って行く」
「それはこっちのセリフだ。おまえが選ぶものはエリシアちゃんが喜ぶ物ばかりだからな」
「そういえば、グレイシアさんとの記念日が今日だとか言っていたわね?」
そう氷炎が、会話の矛先を変える様にヒューズへ確認をした。
すると、ヒューズは今までの会話の重さを感じさせない口調で応えた。
「おお、さすがは氷炎の錬金術師殿だ。聞き逃せないビックな記念日なんだぜ、今日は」
「あら、それは初耳ね」
と応える氷炎は、笑顔でヒューズの家族自慢の続きを求めた。
これ程ストレートに家族自慢を好む言葉を向けられる事が少ないヒューズは喜んだ。
いや、氷炎以外にそう言われないヒューズは、数少ない貴重な機会を逃さなかった。
「いや~、今日は特別なんだよ」
そういうヒューズの家族自慢を聞くのが好きな氷炎は、ただ浮かべた笑みを更に深めた。
氷炎はヒューズ中佐の家族自慢を聞くのが好きです。
それはイシュヴァール殲滅戦前後から続く、ヒューズ中佐との日課かもしれません。
ただ、その為にロイからその好みを厭きられる事もありますが、氷炎は変わりません。
ちなみに、私もヒューズ中佐の家族自慢は大好きです!
使用お題『護りたいあなたへ捧げる10のお題 (1)』配布元:疾風迅雷