おもい

「護衛も無しに新選組の副長が出掛けるなんて不用心でしょ?」

そういう沖田は、土方が千鶴と出掛ける事を幹部達に知らせて邪魔をしようとした。

否、二人が恋仲であっても、千鶴が女姿で出掛けると知った沖田は阻止をしようとした。

そして、その様な沖田の妨害に対し、土方は千鶴に知られない形で対処をしようとした。

また、その土方と千鶴、否、副長に協力する斉藤は言葉少なくも沖田に反論した。

「副長であれば千鶴の身も守れる故に不要だ」

「えー、土方さんは恋仲の千鶴ちゃんと出掛ける事で浮かれてるから、万が一の事態には対応が出来ないんじゃない?」

と沖田が斉藤の反論に指摘をする様な問いを返し、平助も同意する様に心配もした。

「そうだよな。土方さんだって千鶴が一緒だったら油断するだろうし、万が一の事態は常に起こりうるって俺も思う」

「そうだなぁ、俺も野暮だと思うが、千鶴が女の着物である事も鑑みると、護衛は必要だな」

そう原田も沖田と平助に同意すると、妙にやる気な永倉は護衛候補に名乗り出た。

「だから俺が護衛役になってやるって、土方さん!」

「トシ、皆からこんなに心配されているのだから、護衛は一人ぐらい連れて行った方が良いだろう?」

と土方に問いかけた近藤は、周囲の心配だけではない事に気付かず、ただ配慮を勧めた。

それ故に、無言だった土方は近藤の心配に配慮しつつも沖田達の意見には無視をした。

「……近藤さんにはわりぃが、俺は護衛を連れて行く気はねぇ」

「僕達の気遣いには配慮も不要なんて、鬼副長らしい所業ですね?」

「おまえはからかう事が目的で、気遣いなんて言葉は上っ面だろ」

そういう土方の言動が想定内な沖田はただ微笑み、心配をする平助は不満を言葉にした。

「じゃあ、俺の言葉も上っ面だっていうのか、土方さん?」

「左之と平助の心配はわかるが、新八はただ予約した店の食事が目当てだろ」

という土方は平助と原田には配慮をしたが、目的を察している永倉の配慮は一蹴した。

また、土方がこれ以上に論じる無意味さを打破しようとした時、戸外から声がした。

「……お話し中、失礼します」

そういう山崎の気配に気づき、急ぎの報告も思い出した土方は入室の許可をした。

「おう、山崎か。入れ」

「先日の情報収集の結果です」

と言った山崎が差し出した書状に目を通した土方は、想定内の報告と状況に安堵した。

そして、それを察した山崎は静かに退室をしようとしたが、それを土方は止めた。

「おまえはこれから休みか?」

「はい、今日はこれから休む予定です」

「じゃあ、すまねぇが俺達の護衛を頼んでも良いか?」

「護衛とは……副長と雪村君のお邪魔になりませんか?」

そう山崎が土方に答えた為、土方は山崎に護衛を任せる事を決めた。

「これ以上無駄な論議をして、千鶴を待たせたくないからな」

「……わかりました。これから準備をさせて頂きます」

「ああ、頼む。俺もこれから千鶴に声をかけてくる」

と山崎に答えた土方は自室から幹部達を放り出して千鶴を迎えに行った。

また、山崎は任務の後始末と護衛をする為の準備をすぐに始めた。

そして、土方に放り出された幹部達は、それぞれの自室の戻りながら雑談をした。

「山崎君なら護衛任務にも慣れているだろうから安心だな。さすがはトシ、良い人選だ」

「僕的には面白くなったから楽しみですね」

そういう沖田はただ安心した近藤の言葉を否定も肯定もせずにただ微笑んだ。

その様な沖田の笑みの意味、否、思惑に気付いた斉藤は再び鋭い視線で制しようとした。

「……護衛は一人で充分だぞ、総司」

「僕も今回は野暮をする気は無いし、外出から帰ってきてからが楽しみなだけだよ?」

と斉藤に答える、否、制止を全く気にしない沖田の言動から、平助は正直な吐露をした。

「そういう総司の言葉は信用できないけど、山崎君が護衛なら安心できるよな」

「そう思う平助の安心には賛同できないが、山崎なら護衛任務の遂行は容易いだろうな」

「そうだよなぁ、山崎だってあの店の料理には夢中になるよな!」

そう原田が沖田並の鋭い指摘をしたが、永倉をはじめ、気付かない者がほとんどだった。

故に、状況が安心は出来ないと察した近藤が、その理由を問う様な視線と共に問いかけた。

「……山崎君ならば護衛任務に支障があるとは思えんのだが?」

「ええ、近藤さんの考えには間違いないですけど、今回は土方さんの人選は間違いだと思いますから」

という沖田は、あくまでも近藤の意見を否定せず、ただ土方の判断の間違いを指摘した。

また、沖田や原田と同様に察していた斉藤は、ただ悪戯に状況を悪化させる意味を問うた。

「そう思うならば、なぜ止めない?」

「だって、その方が楽しいと思わない?」

「……」

 

 

 

そして、山崎に護衛を頼んで千鶴と出掛けた土方の内心は非常に複雑だった。

否、女の着物を着る千鶴と出掛けるのは土方も楽しみにしていた以上の喜びがあった。

また、千鶴も女の着物を着て土方と出掛けられる事をすごく喜んでいた。

故に、土方は複雑な心境を内心に収めて、ただ千鶴との会話を楽しもうとした。

「この簪はどうだ、千鶴?」

「え、私に合いますか?」

そう土方に答えた千鶴は差し出された簪を受け取りながら少しだけ頬を染めた。

その様な千鶴に対し、土方も鬼副長と呼ばれる事が嘘の様な柔らかな表情で微笑んだ。

「俺の見立てに間違いはねぇよ」

「……ありがとうございます」

「いつも使える物じゃねぇが、また使える機会が作れた時は使ってくれ」

と千鶴に答えた土方は差し出した簪を受け取ると勘定を済ませようとした。

その時、千鶴が店内の段差で転ぶのを察した土方が動く前に山崎が手を差し出した。

「ここは段差があるから気をつけた方が良い」

「ありがとうございます、山崎さん」

そう千鶴は山崎の配慮に感謝し、それを見た土方は複雑な思いをあからさまに見せた。

だが、その表情を的確に理解した者は山崎だけで、千鶴も表情の意図に気付かなかった。

故に、山崎は千鶴が一人で立てる状態にしてから、すぐに護衛の位置へと下がった。

「いや、護衛として当然だから気にしないでくれ」

「そろそろ予約時間になるな、行くぞ、千鶴」

と言った土方は勘定をすぐに済ませると千鶴の肩を抱き寄せながら囁いた。

その様な土方の言動に対し、山崎は苦笑い、千鶴は頬を紅く染めると嬉しそうに微笑んだ。

「はい、土方さん」

 

 

 

土方と千鶴が護衛の山崎と共に屯所に帰った直後、土方が秘かに山崎を呼び出した。

それを予測していた、否、ある意味では想定外だった山崎はすぐに副長の部屋に向かった。

そして、山崎が副長室に入ると、土方は書状を読みながら直球で問い掛けた。

「呼ばれた理由も理解しているな、山崎?」

「はい。ですが、副長からこのように呼ばれる事は想定外でした」

「俺の悋気は想定外だと?」

そう土方が書状から目を離して、山崎へと昏い感情に満ちた視線で見ながら問い返した。

その様な土方の視線、否、非情ではない、人らしい感情に満ちた昏さは山崎を驚かせた。

そう。鬼副長として自身を戒めている土方の人らしさに触れた山崎は少しだけ微笑んだ。

その様な山崎の笑みの意図がわからない土方はただ答えを求める様に視線を強めた。

故に、山崎は微笑んだ表情のまま、肩書上の上下関係ではない、気軽な口調で答えた。

「いいえ、俺の思いも見抜いていると思われていたので」

「?」

「確かに雪村君は特別だと思っています。護衛任務の対象以上の存在として」

という山崎の答えは、土方には想定内だったが、微笑んだ表情が想定外だった。

否、山崎が千鶴に横恋慕をしているならば、この状況で微笑むのはおかしかった。

故に、その様な土方の疑問へ答える様に、山崎は率直な自身の思いも言葉にした。

「ですが、副長が心配なさるような想いは有りません」

「……つまり、守りたいと思っているが、恋愛感情はねぇ、と?」

「ええ。ですから、雪村君を泣かせる輩からは必ず守ります」

そういう山崎の守護者宣言を聞いた土方は自身の誤解に気付くとただ苦笑った。

そして、土方の誤解が解けたと思った山崎は千鶴を思うが故の笑みも見せた。

それを見た土方もただ山崎の様に千鶴への率直な想いを言葉にした。

「それはありがてぇ言葉だ。俺は啼かせる気はあるが、泣かせたくはねぇからな」

「では、失礼します」

「ああ、これからも頼む」

「了解しました」

と土方に答えた山崎は監察方としての表情へと戻すと副長室から去った。

と同時に、副長室の外から夜に似合わぬ明るい口調の沖田が土方に声をかけた。

「へぇ、やっぱり鬼副長も人の子だったんですね?」

「……斉藤、すまねぇな」

そう土方は、沖田の問いに答えずに、制止の為に居る斉藤へと声をかけた。

「……いえ、総司を止められず、申し訳ありません」

「いや、山崎を護衛にした時、総司が邪魔もしなかった理由を疑わなかった俺の責だ」

と土方はあえて斉藤とだけ会話をしていた為、沖田が不服な表情で更に問いかけてきた。

「そういう会話って、本人の前でする会話なんですか、土方さん?」

「そう話すしかない状況をつくったのはお前だろ」

「そうだなぁ、俺的には今回は土方さんに同情だな」

そう言いながら更に会話へと原田が乱入し、平助と永倉も会話へと乱入してきた。

「とりあえず、色々な意味で問題なく終わって良かったと思うけど?」

「いいや、あの店の料理を堪能できなかった事は誰だって悔しいぜ!」

という、原田と平助と永倉の、三馬鹿といえる乱入の仕方に対し、沖田はただ呆れた。

「……本当に三馬鹿の名に相応しいお言葉をどうも」

「ただの食い意地だけな新八と一緒にしないでくれるか?」

そう原田は沖田の総称を否定し、平助もただ千鶴への心配する思いを主張した。

「そうだよ、俺は千鶴を心配しただけだ!」

「確かに千鶴ちゃん的には久方ぶりに本来の姿になれたけど、土方さん的には天国と地獄だったでしょ?」

と沖田は三馬鹿の会話に応えず、ただ土方へにこやかな笑みと共に問いかけた。

すると、土方は沖田の笑みと問いの意図を間違えずに理解すると、昏い視線と共に答えた。

「……悋気を天国呼ばわりとは良い覚悟だな、総司?」

「いやだなぁ、飼い犬が敵だったと認識が出来て良かったでしょう?」

「山崎君は新選組を裏切らないし、千鶴にも余計な感情はない」

そう斉藤は沖田の煽りを抑えようとしたが、沖田は斉藤の制止を気にしなかった。

「まあ、確かに山崎君なら千鶴ちゃんに想いが有っても、土方さんとの仲を邪魔しないと思ったけど……さっきの会話から推測すると、山崎君の介入は土方さん次第みたいだし?」

「あなたこそ、人の気配を察した上でされる会話ではないと思いますが?」

と沖田に問い返したのは副長室から立ち去れなかった山崎だった。

そして、その様な山崎に気づいていた、否、意図的にそうしていた沖田はあえてとぼけた。

「あれ、盗み聞きが君のお得意技じゃなかったの?」

「……諜報活動に関して誤解される様なお言葉を、幹部が率先して口にしないで頂けませんか?」

「そうかな?」

「本当にあなたは……」

そう沖田と山崎の場外乱闘もはじまりかけた為、土方が鬼と呼ばれる一喝をした。

「いい加減にしやがれ!」

という土方の、否、鬼副長の一喝を聞いた斉藤と山崎は黙って頭を垂れた。

また、原田と平助は乱入した事を後悔したように苦笑ったが、永倉は理解が出来なかった。

そして、土方を煽る事を優先する沖田は、鬼の一喝の意図を理解したうで更に煽った。

「……ああ、そろそろ千鶴ちゃんが来るんですね。いやだなぁ、こんな深夜に小姓を呼びつけて何をさせるんですか?」

「総司、いい加減にした方が良い」

そう沖田を制した斉藤の静かな殺気を察した沖田は斉藤の本気を理解した。

それ故に、沖田は土方を煽る行為を止めてから自室へと帰る事にした。

「はいはい。僕はそろそろお暇しますよ。あーあ、今日も収穫なし、か」

「じゃあ、俺も部屋に戻るぜ、土方さん」

「あ、俺も部屋に戻る」

と原田と平助も沖田に同意する様に自室に帰ろうとしたが永倉は気付かなかった。

「へ? どうしたんだ、皆??」

「この馬鹿も部屋に戻せ」

「りょーかい」

「ああ。わかってるって、土方さん」

「へ???」

 

 

 

副長室にいつも通りの静けさが戻った頃、千鶴が淹れたお茶を持ってきた。

「……本当にすみません」

「どういう意味だ?」

「いえ、皆さんにもご迷惑をおかけしたので……」

そう千鶴が自虐しながら自身の願いを叶えてもらった事を後悔した。

そう。気落ちしているが故に雑用を過分にしていた千鶴の気分転換を土方が提案した。

その結果、土方が千鶴の願いを叶える事を優先した為、あえて言葉を遮る様に問い掛けた。

「俺を甲斐性無しにする気か?」

「え?」

「恋仲になった、惚れた女の我が儘も叶えらねぇ男なんて、情けねぇだろ」

という土方の軽口めいた答えは千鶴の沈んでいた思いを救い上げてから頬を染めさせた。

その様な千鶴の初心な反応に土方は苦笑い、更に土方は千鶴への配慮を言葉にもした。

「それに、おまえはもっと我が儘を言った方が良いと、俺も思ってるぜ?」

「……じゃあ、今夜はお仕事をお休みして頂けますか?」

そういう千鶴の躊躇いながらのお願いが、自身への配慮ではない事に土方は苦笑った。

「おまえが一緒ならな」

「添い寝でしたら良いですよ?」

「そんなの問い返しは観客が居る所為か?」

と土方が千鶴に問い返すと、副長室の近くで密かに居座っていた気配がざわつき始めた。

それ故に、土方は複数の気配が居る方向へ鬼と呼ばれる厳しい視線を向けた。

また、気配はわからずとも、土方が見た方から聞こえる小さな声の主達に千鶴は微笑んだ。

「気配はわかりませんけど、皆さんの声には私でも気付けますよ?」

「だったら、馬が蹴る前に鬼の刀の錆にするか」

そう土方が自室に置いてある刀を手に取ると、鬼の名に相応しい殺気と共に抜刀をした。

それに気づいた者達は慌てて副長室から遠ざかり、副長室は本当の静けさを取り戻した。

それ故に、土方は先程までの殺気を静めると、千鶴が淹れたお茶を静かに飲んだ。

 

 

 

 

 

皓月庵(サイト)様への寄稿小説ですが、当サイトでは美麗イラストのUPが出来ていません。すみません。