アルムとの結婚が現実となったディアーナは、結婚式の数日前にダリスに輿入れをした。
以前の輿入れとは違い、ただ喜びを感じていたディアーナの元に驚く来訪者が現れた。
「アルム?!」
そうディアーナに、小さくも驚愕を秘めた声を上げさせたアルムはニッコリと笑った。
「お忍びが得意だという君を、驚かせる事が出来たのだから、今宵は上出来かな?」
「確かにここはダリスの王宮内ですし、アルムを拒む扉はありませんけど……わたくし以上ですわ、アルムは」
「それは褒められているのかな?」
という軽口で問い返すアルムに対し、ディアーナもロイヤルスマイルで問い返した。
そう、兄からの直伝である負の感情をあからさまに隠した、穏やかとはいえない笑顔で。
「……そう聞こえるなら、アルムはわたくし以上の『お馬鹿さん』ですわ」
「クスクス……では、姫君の機嫌をこれ以上悪くしたくないから、用件を告げますね」
「え? ……わたくし、ダリスに着いてからは何もしていませんし、今のところ、企んでもいませんわよ!」
そう答えたディアーナは、叱られる事にきづいた子供のような、いつもの表情に戻った。
そんなディアーナの表情の変化を楽しいと思いつつも、アルムは注意点を逃さなかった。
「……今のところ、という言葉は聞き流した方が良いのかな?」
「そ、それは……いえ、わたくしの事より、アルムの用件の方が優先ですわ!」
と、ディアーナは話の矛先を変えるように、わざとらしい声と言い訳を言葉にした。
そういうディアーナの言動は、出逢った時から変わらないと思ったアルムは嬉しかった。
それ故に、アルムは想いのままにディアーナを抱き寄せ、甘い声で囁くように忠告した。
「……僕の事を優先してくれるのは嬉しいけど、見逃すのは今宵だけだよ?」
そう囁かれたディアーナは、幼子のようにただ驚きから身も硬くした。
そんなディアーナの反応が、アルムの想像よりも幼かった為、抱きしめる腕を緩めた。
「そんなに身体を硬くしないで。嫌われたのではないかと、不安になるから」
「……それはアルムが耳元で囁く所為ですわ」
「これから告げる事と確認する事には相応しいと思いますが?」
というアルムの問い掛けは、ディアーナにいつもの表情と思考を取り戻させた。
いや、アルムの問い掛けに秘められた『かなしみ』が、ディアーナに警鐘を直感させた。
そういう直感を信じているディアーナは、生真面目な口調でアルムに問い返した。
「どういう意味ですの、告げる事と確認する事とは?」
「神に誓う前に君に誓い、君にも僕に誓って欲しいだけです」
そう答えるアルムに対し、ディアーナは硬い表情を崩し、安易に問い返した。
「まあ。アルムは婚儀まで待てないんですの?」
「ええ。先に僕に誓って欲しいんです」
「……わたくしはクラインの王女で、ダリスの王妃となり、アルムもダリスの新王様ですわ。婚儀だってあとは時間が経つのを待つのみでしてよ?」
というディアーナの問い返しは、アルムにとっても想定内だった。
だが、それ故に、アルムは『かなしみ』を抑える事なく、ディアーナを強く抱きしめた。
その強さに秘められたアルムの意図がわらないディアーナは、ただ抱きしめられていた。
だからアルムは、ディアーナへ懺悔するように、苦しくも甘い声で囁いた。
「だからこわいんですよ」
「……怖い?」
そう告げる、アルムの言葉の意味に、ディアーナは気付く事は出来なかった。
だが、アルムの苦しみが少しでもやむように、ディアーナは強く抱きしめ返した。
そんなディアーナの想いが、アルムに少しだけの余裕と、平常心を取り戻させた。
だから、ディアーナを抱きしめていた腕の力を緩め、表面的な笑みで答えた。
「……すみません。やっと叶った姫との婚儀故に……」
という、アルムの取り繕うような答えに対し、ディアーナはあえて口を挿んだ。
「……ディアーナですわ」
「え?」
「わたくしはクラインの王女ですし、ダリスの王妃となる責務も忘れませんわ。でも、わたくしはアルムの前では『姫』ではなく、『ディアーナ』でもいたいんですの」
そうディアーナに応えられたアルムは、ただ驚きから言葉を失った。
そんなアルムに対し、ディアーナはその意図を確認するように視線を合わせた。
そして、視線も向けられたアルムは、反射的にディアーナからの視線からも逃れた。
そんなアルムの態度から、自分に非があったのだと思ったディアーナは謝罪を口にした。
「ごめんなさい。わたくしったら、つい……」
「いいえ。謝るべきは僕の方だ。僕もディアーナの隣では『アルム』でありたいから」
とディアーナに告げるアルムの言葉は、先程までの苦しみが嘘のような温かさがあった。
それ故に、ディアーナはただ喜びを露わにするような美しい笑みでアルムに応えた。
「アルム……」
「……では、神に誓う前に、僕にも誓わせてくれるかい?」
「もちろんですわ。わたくしもあなたに誓いますわ」
そう応えたディアーナは、アルムの『苦しみ』も『意図』もわからなかった。
それでも、アルムが求めるモノを直感で理解したディアーナは、微笑みながら応えた。
そして、アルムも綺麗に微笑むディアーナに対する心からの強い想いを隠さずに告げた。
「これからも僕の隣で支えてほしい。愛しているよ、ディアーナ」
「わたくしもあなたを一番近くで支えますわ。愛しています、アルム」
……糖度の高さが想定外故に全身が溶けそうになっています。
このお題のSSは大筋を決めるまでの時間が最長という難産でしたが……高糖度をお求めの方にはお応え出来たかと。
ただ、当サイト内では珍しい高糖度なので、苦手な方には申し訳ありません。
来週更新予定のSSはラストなので……高糖度が続くと思われます。
なので、苦手な方はロング・レンジまでの退避か回避をお願いします。
恋愛の10題(11)お題配布元:疾風迅雷