9 僕は君に惹かれた(お題使用1)

アルムとの結婚が現実となったディアーナは、結婚式の数日前にダリスに輿入れをした。

以前の輿入れとは違い、ただ喜びを感じていたディアーナの元に驚く来訪者が現れた。

「アルム?!」

そうディアーナに、小さくも驚愕を秘めた声を上げさせたアルムはニッコリと笑った。

「お忍びが得意だという君を、驚かせる事が出来たのだから、今宵は上出来かな?」

「確かにここはダリスの王宮内ですし、アルムを拒む扉はありませんけど……わたくし以上ですわ、アルムは」

「それは褒められているのかな?」

という軽口で問い返すアルムに対し、ディアーナもロイヤルスマイルで問い返した。

そう、兄からの直伝である負の感情をあからさまに隠した、穏やかとはいえない笑顔で。

「……そう聞こえるなら、アルムはわたくし以上の『お馬鹿さん』ですわ」

「クスクス……では、姫君の機嫌をこれ以上悪くしたくないから、用件を告げますね」

「え? ……わたくし、ダリスに着いてからは何もしていませんし、今のところ、企んでもいませんわよ!」

そう答えたディアーナは、叱られる事にきづいた子供のような、いつもの表情に戻った。

そんなディアーナの表情の変化を楽しいと思いつつも、アルムは注意点を逃さなかった。

「……今のところ、という言葉は聞き流した方が良いのかな?」

「そ、それは……いえ、わたくしの事より、アルムの用件の方が優先ですわ!」

と、ディアーナは話の矛先を変えるように、わざとらしい声と言い訳を言葉にした。

そういうディアーナの言動は、出逢った時から変わらないと思ったアルムは嬉しかった。

それ故に、アルムは想いのままにディアーナを抱き寄せ、甘い声で囁くように忠告した。

「……僕の事を優先してくれるのは嬉しいけど、見逃すのは今宵だけだよ?」

そう囁かれたディアーナは、幼子のようにただ驚きから身も硬くした。

そんなディアーナの反応が、アルムの想像よりも幼かった為、抱きしめる腕を緩めた。

「そんなに身体を硬くしないで。嫌われたのではないかと、不安になるから」

「……それはアルムが耳元で囁く所為ですわ」

「これから告げる事と確認する事には相応しいと思いますが?」

というアルムの問い掛けは、ディアーナにいつもの表情と思考を取り戻させた。

いや、アルムの問い掛けに秘められた『かなしみ』が、ディアーナに警鐘を直感させた。

そういう直感を信じているディアーナは、生真面目な口調でアルムに問い返した。

「どういう意味ですの、告げる事と確認する事とは?」

「神に誓う前に君に誓い、君にも僕に誓って欲しいだけです」

そう答えるアルムに対し、ディアーナは硬い表情を崩し、安易に問い返した。

「まあ。アルムは婚儀まで待てないんですの?」

「ええ。先に僕に誓って欲しいんです」

「……わたくしはクラインの王女で、ダリスの王妃となり、アルムもダリスの新王様ですわ。婚儀だってあとは時間が経つのを待つのみでしてよ?」

というディアーナの問い返しは、アルムにとっても想定内だった。

だが、それ故に、アルムは『かなしみ』を抑える事なく、ディアーナを強く抱きしめた。

その強さに秘められたアルムの意図がわらないディアーナは、ただ抱きしめられていた。

だからアルムは、ディアーナへ懺悔するように、苦しくも甘い声で囁いた。

「だからこわいんですよ」

「……怖い?」

そう告げる、アルムの言葉の意味に、ディアーナは気付く事は出来なかった。

だが、アルムの苦しみが少しでもやむように、ディアーナは強く抱きしめ返した。

そんなディアーナの想いが、アルムに少しだけの余裕と、平常心を取り戻させた。

だから、ディアーナを抱きしめていた腕の力を緩め、表面的な笑みで答えた。

「……すみません。やっと叶った姫との婚儀故に……」

という、アルムの取り繕うような答えに対し、ディアーナはあえて口を挿んだ。

「……ディアーナですわ」

「え?」

「わたくしはクラインの王女ですし、ダリスの王妃となる責務も忘れませんわ。でも、わたくしはアルムの前では『姫』ではなく、『ディアーナ』でもいたいんですの」

そうディアーナに応えられたアルムは、ただ驚きから言葉を失った。

そんなアルムに対し、ディアーナはその意図を確認するように視線を合わせた。

そして、視線も向けられたアルムは、反射的にディアーナからの視線からも逃れた。

そんなアルムの態度から、自分に非があったのだと思ったディアーナは謝罪を口にした。

「ごめんなさい。わたくしったら、つい……」

「いいえ。謝るべきは僕の方だ。僕もディアーナの隣では『アルム』でありたいから」

とディアーナに告げるアルムの言葉は、先程までの苦しみが嘘のような温かさがあった。

それ故に、ディアーナはただ喜びを露わにするような美しい笑みでアルムに応えた。

「アルム……」

「……では、神に誓う前に、僕にも誓わせてくれるかい?」

「もちろんですわ。わたくしもあなたに誓いますわ」

そう応えたディアーナは、アルムの『苦しみ』も『意図』もわからなかった。

それでも、アルムが求めるモノを直感で理解したディアーナは、微笑みながら応えた。

そして、アルムも綺麗に微笑むディアーナに対する心からの強い想いを隠さずに告げた。

「これからも僕の隣で支えてほしい。愛しているよ、ディアーナ」

「わたくしもあなたを一番近くで支えますわ。愛しています、アルム」

 

 

 

 

 

……糖度の高さが想定外故に全身が溶けそうになっています。

このお題のSSは大筋を決めるまでの時間が最長という難産でしたが……高糖度をお求めの方にはお応え出来たかと。

ただ、当サイト内では珍しい高糖度なので、苦手な方には申し訳ありません。

来週更新予定のSSはラストなので……高糖度が続くと思われます。

なので、苦手な方はロング・レンジまでの退避か回避をお願いします。

 

 

 

恋愛の10題(11)お題配布元:疾風迅雷