2 この命惜しくはないのです

氷炎が病院に運ばれた翌朝、ギリギリの時刻で東方司令部に現れたロイは驚いた。

入院を勧められた重傷の氷炎が、通常の軍務に就いていたから。

その状態を男性陣は無言で見過ごし、片割れといえる女性補佐官は沈黙していた。

その光景を何度も見せられていたロイは、個人の執務室に氷炎を呼び出した。

そして、いつものように無茶を咎めるロイに対し、氷炎は無言だった。

「……そうだな。私は上官で、おまえは補佐官であり護衛だったな」

そう言うロイの声は『敵』を目の前にしたかのような、冷たさを感じさせた。

それでも氷炎の態度は変わらず、むしろ硬化したかのような冷たい雰囲気を漂わせた。

「ではこう聞こう、氷炎の。なぜ私を無理にかばった?」

「私が護衛であり補佐官だからです」

あくまでも『こたえ』を言葉にしない氷炎に対し、ロイも強い口調で問い質した。

「あれくらい、私ならば軽傷で済んだはずだ」

「軽傷だろうと、上官を護るのは当然です」

「その為に、おまえが入院ギリギリの傷を負っても良いと?」

「その為に、私はマスタング大佐の部下となりましたから」

部下として答える氷炎の態度は、ロイの怒りに火を注ぐような言動だった。

それを理解している氷炎と、理解しても納得できないロイは更に言葉を重ねた。

「……東方の治安が不安定とはいえ、ここはイシュヴァールではない」

「何処であろうと、私は護衛任務を遂行するまでです」

「では命令だ、氷炎の。今後は私を護るな!」

そう、ロイに命令された氷炎は、沈黙を返した。

怒りで氷炎の言動を理解しようとしないロイは、思いのままに言葉を続けた。

「……無言は否定か? 軍法会議でも良いと?」

そこまで問われた氷炎は冷たい雰囲気を崩す事なく、真っ直ぐな視線だけを返した。

そして、その視線の清さと冷静さに気付いたロイは、自分の言動を省みた。

それ故に、ロイは氷炎に対する言葉を『親友』としての口調に戻した。

「……命令は撤回だ。だが出来る限り重傷は避けろ。俺もおまえが傷つくのを見たくない」

「ええ。もちろんよ、ロイ」

そう答えた氷炎の微笑みは、母性と暖かさに満ちていた。

そう氷炎が微笑むのは軍務に就いている時には見られない為、ロイは素直に問いかけた。

「いつもそういう風に笑うつもりはないのか?」

ロイの問い掛けの意味がわからない氷炎は、意味を確認する様な視線を返した。

相変わらず、自身の魅力に関わる事には鈍い氷炎に対し、ロイは苦笑いを返した。

「気付いていないのか? そう笑っていれば、男など選び放題になるぞ」

「私は恋愛に興味はないし、ロイ以外を護るつもりもないんだけど?」

「恋愛を否定するとは……人生を損する生き方だと思わないのか?」

そう氷炎をからかうように、ロイは楽しげに問い返した。

しかし、氷炎にとっては楽しい事ではない為、切り上げるようにロイへ問い返した。

「その言葉、ホークアイ中尉にも言ってみる?」

「……その言葉は本気か?」

「私はいつでも本気よ?」

と、氷炎に問い返されたロイは、いつものように白旗を上げさせられた。

氷炎との付き合いが長いロイは、こういう会話を好まない事は熟知していた。

それにこの状況で、氷炎がホークアイを味方につければ、ロイが窮地に陥るしかない。

「……わかった。私の負けだ。とりあえず、しばらくは自宅で休養しろ」

「事務仕事なら支障はないし、護衛任務も問題はない」

「重傷者の手を借りる程に忙しくはない。それに、怪我人に護られるつもりはない」

そうロイは、氷炎の答えだけは強く否定した。

氷炎の意志を変える事が出来ないと再確認したロイにとって、それは譲れなかった。

しかし、氷炎にとってもロイの言葉は受け入れられない、譲る事の出来ない言葉だった。

「この程度の傷なら、本当に……」

「言っただろう、ここはイシュヴァールではない。おまえが無理をする必要はない」

と言われた氷炎は、ロイの言葉に対し、いや思いに対し、譲歩を口にした。

「……じゃあ、書類整理とロイが出向く事件への付き添いは?」

「……本当におまえは俺の母親のようだな」

「マダム程の情報収集は難しいけど、そう感じてくれるだけでも嬉しい」

そう氷炎が答えながら微笑むから、ロイは完全に白旗を上げつつも意志は伝えた。

「おまえはおまえだ。換わりや代用にする気はないぞ」

「その言葉だけで充分よ。ありがとう、ロイ」

「では、私の書類整理から頼むか」

「了解しました。マスタング大佐」

 

 

 

 

 

氷炎の容姿ですが、黒髪黒眼の中性的な美人という設定ですが、長い黒髪をただ無造作に束ねる程度に、自身の容色には無頓着という設定も。

軍の上層部との取引もある商人でもある富豪の1人娘でもある為、着飾る技術はあります。

ですが、氷炎自身はそういった事に興味はないようです。

 

 

 

使用お題『護りたいあなたへ捧げる10のお題 (1)』配布元:疾風迅雷