大暴走中の香穂子と柚木が会わなくなって数日がたった頃。
柚木の完璧な優等生っぷりは変わらなかったが、勘が鋭い者や親しい者には不機嫌である事は筒抜けだった。
そして、今日の放課後でも親衛隊達との会話を終えた柚木は、あえて寄り道をしながら火原が待つ図書室へ向かった。
すると、部活に向かう土浦と出会った柚木は自身の気持ちが下降する予感がした。
そして、その予感は正しく、土浦は柚木と香穂子との関係を心配する様に問いかけた。
故に、柚木は優等生らしく厚意に感謝しながらも、一線を引くべきだと思ったが、口から出た言葉は優等生らしかぬ本音に近い牽制だった。
「君は世話好きだとは知っていたけど、日野さんには恋心でもあるのかな?」
「日野はストレートだし、無駄な横恋慕をする暇が有ったら、生徒会から逃げる策を考えますよ」
「……では、僕を諭すつもりで声をかけてきたのかい?」
そう柚木が優等生らしい言動を心掛けながらも、本音がただ漏れていると自覚していたが、あえて土浦は会話を続ける事を選んだ。
「日野はストレートだから、自分だけが悪いと思えばあこそまで暴走しないと思います」
「そうだね。日野さんは素直だから、僕との関係を知る土浦君は『柚木先輩』に問題があると思ったのかな?」
「つまり、柚木先輩はトラブルの原因もわかっていて、解決も可能なんですね?」
「なら、君はどうする?」
という柚木からの挑発めいた問いに対しても、土浦は気にする事なく淡々と答えた。
「だったら、早く解決してください。火原先輩から何度も協力しろって言われてるんです」
「つまり、君は傍観してくれる、という意味かな?」
「ええ。人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られると言われていますからね」
そういう土浦は柚木と香穂子の関係を察してもあえて深く係わろうとしないと宣言された事が心地良いと思った。
故に、柚木は意図的に香穂子への呼称を名字ではなく名前としたままで問い返した。
「じゃあ、志水君あたりが今日は香穂子に和解を提案しているのかな?」
「火原先輩の心労を増やして、更なる厄介事が増えないようにしてくださいよ、柚木先輩」
という土浦の愚痴、否、苦情を聞いた柚木は、これから会う予定の火原からも策に遭うと予想した。
だが、それも心地良いと思える自身の変化を柚木のもたらした香穂子の存在の大きさに苦笑った。
そして、その様な香穂子への想いを言葉にする気はない柚木は優等生らしい完璧な笑みで答えた。
「とりあえず、傍観の礼はしようと思うから、数日の時間をもらうよ?」
「なら、数日は耐えますが、それ以上に火原先輩は抑えられませんよ?」
「ああ、善処しよう」
私的に、土浦君は意外とドライで、世話好きというよりも傍観を選ぶ人だと思っています。
ただ、面倒見は良いと思うので、関われば最後までフォローしてくれるとも思っていますが。