「ロイ!」
という叫びを事件の現場指揮中に聞いたロイは、迫るナイフから身を逸らそうとした。
しかし、迫るナイフから完全に避けられないと思ったロイは、最小限にしようとした。
だが、ロイの身がナイフによって傷つく事は無かった。
ロイの護衛役で少佐でもある氷炎の錬金術師が、そのナイフを自らの身体で受けたから。
「!」
その状況にロイはただ驚き、ハボックはナイフを持つ人物を無力化した。
そして、すぐに状況を把握したホークアイが、ナイフで傷ついた氷炎の身体を支えた。
「大丈夫ですか?」
そう問いかけるホークアイは、慣れた手つきで氷炎の傷の応急手当てをはじめた。
しかし、ロイを無理にかばった所為か、氷炎が傷を負った場所が悪すぎた。
その為、傷から流れる血を止められないホークアイは、指示を仰ぐようにロイを見た。
「大佐、ハボック少尉と共に病院へ。ここの指揮はお任せください」
「ああ。頼んだ……」
そうロイが答えた時、氷炎が浅くはない傷の痛みに耐えながら、小さな声で問い掛けた。
「……ロイは、大丈夫?」
と問いかける氷炎の声は小さくとも、強い意志と不安を感じさせた。
氷炎が負った傷は致命傷ではないと思ったが、その声はロイの不安を増長させた。
「私の心配をしている場合か!」
「ロイが……無事なら、私も大丈夫……」
そう答える氷炎の声は更に小さくなりつつも、安心と満足げな表情を見せた。
まるで、ロイを護れた事だけに満足しきっているともいえる表情は、周囲を凍らせた。
そして、そのような状況を確認する事なく、氷炎は小さな笑みを見せてから気を失った。
「しっかりしてください、少佐!」
と、問いかけるように叫んだホークアイは、氷炎をロイとハボックに任せた。
そして、任されたロイは氷炎の身体を抱え、ハボックは車の運転席についた。
「ハボック、最短距離で病院へ向かえ」
「……少佐なら大丈夫ですよ、大佐」
「……わかっている」
そう答えたロイは、ハボックの気遣いを受けながら、氷炎の身を案じた。
そう。重傷といえる傷ではなく、氷炎の言動が、ロイに不安を与えた。
ロイを護る為には、どのような犠牲でも躊躇わない氷炎の言動を。
しかし、そんな氷炎の言動を止められない自分の無力さにロイは苛立った。
そのような気配に気づいたハボックは、それを和らげるように問いかけた。
「今回で何度目ですかね。少佐が大佐をかばって病院行きになるのは」
「……さあな。病院など無かった殲滅戦を含めれば、数えきれん数になっているからな」
と答えるロイは、応急手当てを終えた氷炎の身から視線を逸らした。
それを車のバックミラーから見たハボックは苦笑いで答えた。
「ほんと、少佐の護衛っぷりは周囲を凍りつかせるほどに完璧ですよね」
「そんな完璧さなど要らないのだがな……」
「そういっても少佐は変わらないでしょうね」
「……ああ。止められるなら、既に止めているからな」
その言葉に含まれる意味と過去の重さ故に、ハボックは運転に集中した。
そして、その事実を受け入れる事しか出来ないロイは、空いた片手を強く握りしめた。
今日から当サイトのオリキャラ『氷炎の錬金術師』がメインの過去作を連続更新します。
使用お題『護りたいあなたへ捧げる10のお題 (1)』配布元:疾風迅雷