鬼の副長と新選組の剣

千鶴が島原に芸者として潜入捜査をしてから数週間後。

千鶴からの文を読んだ土方はすぐに内容を直接確認する為に島原へ向かおうとした。

だが、それを阻むように沖田が意味深な笑みで土方に絡んだ。

「あの芸者から文でも届きましたか?」

「……」

「本当に綺麗で可愛いから、鬼の副長が色ボケるのも当然ですよね?」

そういう沖田の言外の意を察した土方はその真意を確かめる様に手短な命を下した。

「総司、来るなら勝手な真似はするな」

「ええ。もちろん逢引の邪魔はしませんよ」

という沖田の答えを聞いた土方は応えずにただ島原へと急いだ。

 

 

 

千鶴からの状況報告を聞いた土方はすぐに大捕物となる事を想定した計画を立てた。

故に、千鶴は島原から屯所へ戻ろうとし、沖田は再び意味深な笑みで土方に確認した。

「僕達は浪士達を監視して、土方さんが戻り次第で大捕物、でしょう?」

「後は斎藤や山崎と一緒に行動しろ」

「あの……」

「ああ、千鶴ちゃんは一緒に屯所へ戻りますか?」

そう沖田が問うと土方は無言で鬼副長の名にふさわしい厳しい視線を返し、千鶴はただ状況を憂いた。

故に、沖田は土方の無言の要求を正しく理解した上でも意味深な笑みを見せ続けた。

「わかってますよ。今は馬に蹴られてる場合じゃないって事は」

「お、沖田さん!」

「屯所に戻るぞ、千鶴」

「はい」

と答えた千鶴は、先程まで戸惑っていたとは思えぬ程の覚悟を秘めた応えだった。

故に、土方は満足げな笑みを見せ、沖田も認めるような真剣なまなざしを千鶴に向けた。

また、土方が芸者の格好である千鶴と島原を出ようとした時の騒動を沖田は想定もしていたが、あえて協力する事も邪魔する事もない傍観者に徹した。

そして、土方が千鶴と共に島原を出るのを確認してから、斎藤と山崎が積める角屋に向かった。

 

 

 

「本当に副長の命なのか?」

そう沖田に問うた斎藤は唐突に角屋へ現れた事への不審もあからさまに見せた。

だが、それも予測済みだった沖田は疑いを気にする事もなく、ただ淡々と答えた。

「うん。鬼の副長からのご命令だよ」

「では、何故、先程の副長と雪村君の騒動をただ見ていた?」

「あれは楽しかったよね。千鶴ちゃんを此処に置いて、土方さんだけが屯所に戻った方が楽だったのに」

「総司」

「……本当に楽しいだけで見過ごしたなら、土方さんについてこないよ?」

という沖田の答え、否、真意を察した斎藤は沈黙し、口を挟まなかった山崎があえて真意を確かめた。

「つまり、副長が起こされた騒動を利用する、という事ですか?」

「千鶴ちゃんが言ってた問題の浪士達の部屋はあの部屋だから」

「……副長が戻られてから踏み込む判断も仰ぐべきだ」

「そんなこと言ってたら、浪士達も逃げちゃうと思うし、斬るだけなら僕と一君がいれば問題ないでしょ?」

そういう沖田と斎藤は、今にでも刀を交えそうな程に険悪な雰囲気となった。

故に、その様な状況を何度も経験している山崎は現実的な提案で打開を探ろうとした。

「まずは、部屋の様子を俺が確認しましょう……」

「……逃げられそうだけど、どうする?」

と沖田が言うように、監視を命じられた浪士達が逃げようとしている為、斎藤は溜息を吐いた。

また、この様な状況ゆえに山崎も内心で溜息を吐きながらも新選組の為に動いた。

「……援護します」

 

 

 

土方が大捕物の準備をして島原に戻ると、捕縛された浪士達と満足げな沖田と申し訳なさそうな斎藤と感情を殺している山崎に出迎えられた。

故に、土方は屯所へ戻って副長としての手配を済ませるとすぐに沖田を呼び出した。

「……で、俺はお前に監視を命じただけだったよな?」

「監視対象が逃げようとして、土方さんが間に合わなかったから、斬っただけですよ?」

「……」

「いやだなぁ。そんなに怖い顔をしていると、千鶴ちゃんにお酌をしてもらえなくなりますよ?」

「総司!」

「土方さん」

そう千鶴が怒りを爆発させようとした土方の名を告げた。

すると、土方は憑き物が落ちたように怒りを静め、沖田はいつもの意味深な笑みを見せた。

「ほんと、千鶴ちゃんってば、女になったよね。いや、女にさせられたのかな? きっと、鬼の副長から強引に迫られて……」

「総司!!」

「私は自分の意志で土方さんのお傍に居る為の最善を尽くしているだけです。だから、沖田さんのお気遣いだけ受け取らせて頂きます」

という千鶴の覚悟を見せられた土方はただ無言で愛でる様な視線を返し、沖田はただ瞳を見開いた。

そして、沖田の驚きを誤解した千鶴は土方との会話に介入した事をただ謝罪した。

「あ、すみません」

「僕的には鬼の副長のデレ顔なんて珍しいモノが見られたから、大丈夫だよ、千鶴ちゃん」

「……総司」

「いやだなぁ、いくら本当の事を言われたくらいで、そんなに怒ってたら身体も大変ですよ?」

「そんな心配する気があるなら、上っ面だとしか言えねぇ心配と言動を改めやがれ!」

「土方さん、沖田さんは新選組の剣として判断されたから、斎藤さんや山崎さんも同意されたのだと思います」

そう千鶴から告げられた、否、土方と沖田の真意を察した様な言葉は沈黙をもたらした。

だが、すぐにそれは新たな介入者である山崎によって変化した。

「俺も雪村君の意見に同意です。沖田さんの判断は先走りですが、結果的には間違っていなかったと思えますから」

「……なら、仕置きで済ませるか」

「無罪放免じゃないんですか?」

「てめぇは自分の言動の結果をもっと考えやがれ!」

「では、山崎さんの分のお茶も用意します」

「いや、大丈夫だ、雪村君。俺はこの報告書を副長にお渡しする為に来ただけだからな」

「はい、わかりました……土方さん?」

という千鶴と山崎の会話に土方が鬼の副長らしくない表情を見せた。

否、ただの悋気といえる態度だったが故に、沖田は意味深に笑い、山崎も苦言を呈した。

「男の悋気は醜いですよ、土方さん?」

「……副長、恋仲の女性をそこまで束縛されるのは、いかがかと」

「有り難うございます。私は嬉しいですから。だから、大丈夫です」

そう千鶴が自身の思いを正直に告げると、土方は目を見開き、沖田は笑みが固まり、山崎は言葉を失った。

その様な三者の反応に対し、千鶴はただ自身の思いを言葉にした。

「土方さんに求められ、意思表示をして頂けるのは、本当に嬉しいのです」

「千鶴……」

「はいはい。お説教は後にしてあげますから、存分に千鶴ちゃんを愛でてください」

「沖田さんの配慮には賛成ですが、説教を受けるべき立場の者が言うべき配慮ではないと思います」

「……千鶴」

と土方がただ千鶴の名を口にすると、千鶴は土方の意を察した様に応えた。

「はい。夜も楽しみにしています」

「ほんと、千鶴ちゃんは最強だね」

「雪村君。君にはこれからも、副長を支えて欲しい」

「はい。微力ながらも全力で尽くさせて頂きます」

そう千鶴が沖田の言葉に答え、山崎の願いを謙遜しながらも真摯に受け止めた。

それを見せられた、否、試されていると思った土方は一息を吐いてから会話に加わった。

「千鶴、俺を甲斐性もない男にする気か?」

「え?」

「今度の休みには女物の着物を用意するから着ろ」

「……」

「俺が見立ててやるんだ。楽しみにしてろ」

「はい!」

と土方に答えた千鶴は満面の笑みを見せた。

その笑みには艶やかさはなかったが、誰も認める美しい笑みだと三人は思った。

「……ほんと、鬼の副長が状況も忘れて色ボケるって、アリかな?」

「隊務に支障がないのですから、問題も無いと思われます」

「……総司に山崎。馬に蹴られたくねぇなら……わかっているな?」

「本当に恋する男は面倒ですね。ただ、愛でるのはお仕事を終えてからにしてくださいね?」

そう土方に問い返した沖田は自室へ戻り、山崎は淡々とした口調で言外の命に従った。

「了解しました。では、これから別件の任務に就きます」

「……よろしかったのですか?」

「総司に説教なんて無駄なもんをするより、おまえを愛でる方が有益だろ」

「では、お茶菓子も用意します」

「……休憩させる気か?」

「はい。お仕事に余裕があるのでしたら、少しでもお休みください。そして、夜にもお時間が有れば朝まで一緒に過ごさせてください」

「わかったよ。本当に、おまえにはかなわねぇよ、千鶴」

「はい。頑張って更に精進しますから、お傍に置いてくださいね、土方さん」

 

 

 

 

皓月庵(サイト)様への寄稿小説ですが、当サイトでは美麗イラストのUPが出来ていません。すみません。

あと、色ボケるとかデレ顔という言葉等は江戸時代にないと思いますが、是非スルーでお願いします。

また、ひじちづのCP小説で沖田さんが活躍しているのも、黙認して頂けると有り難いです。