元の世界に戻らず、ユリウスを家族として選んだアリスは、この世界で生きる事を決めた。
その様なアリスの決断と時計塔に住む事をユリウスは黙認し、エースは密かに喜んだ。
しかし、エースはユリウスとアリスの関係が『家族』である事が不満だった。
「なんで二人は結婚しないの?」
「……何度も言ってるけど、私にとってユリウスは大切な存在だけど、あくまでも『家族』のように思っているだけよ」
「そうアリスは言ってるけど、ユリウスはどうなの?」
そうエースに問われても、ユリウスは時計を直す手も止めずに黙々と作業をしていた。
その様な二人の普遍さに少しだけ苛立ったエースは少しだけ目を細めた。
「……ふーん、ユリウスは否定も肯定もしない、か。じゃあ、俺がアリスの恋人に立候補しようかな?」
「エース、冗談はやめて」
「冗談だと思う?」
と問い返したエースはアリスを無理やり抱き寄せてからキスをしようとした。
だが、すぐに沈黙していたユリウスがエースを咎める様に名を叫んだ。
「エース!」
「あ、やっぱり止めるんだ?」
そうユリウスに問い返したエースは、微笑みながら抱き寄せたアリスの身体を解放した。
そして、あからさまに動揺した事を隠す様に、ユリウスは不機嫌な様子で言葉を口にした。
「……『家族』が玩ばれるのを黙って見過ごすほどに薄情ではない。アリス、コーヒーを淹れてくれるか?」
「ええ……ありがとう、ユリウス」
とユリウスに感謝したアリスはエースへの鉄拳制裁をしてから部屋を出た。
そして、アリスが退室してからユリウスはエースを強く牽制する様に強い視線を向けた。
しかし、エースは自身の行動を省みず、ただユリウスの意志を問い続けた。
「ユリウスはアリスを『家族』なんて思ってないだろ?」
「……アリスはそう思っている」
「……そんな態度だと、すぐに盗られちゃうと思うけど?」
「……その方が幸せになれる」
そう短くも答えている言葉が、ユリウスの本音だと理解するエースはあえて問い続けた。
「本当にユリウスってネガティブだなぁ。でも、だからアリスに選ばれたんだよね?」
「……お前がそう思うならそうなんだろう」
「でも、俺もそんなユリウスが大好きだぜ?」
とエースが本音とからかいを込めて問うとユリウスはすぐに拒絶をした。
「私にその気は全くない」
「あはははは。相変わらず容赦もない、酷い断り方だね、ユリウスは」
そうユリウスに答えるエースは、言葉とは裏腹な笑みで一方的に問い続けた。
否、それがユリウスとエースのコミュニケーションである事を三人は認識していた。
そして、それが三人にとっての時計塔での日常で、幸せな時間でもあった。
しかし、それが束の間の幸せである可能性をユリウスとエースは知っていたが、あえてアリスには告げなかった……
ハトアリのユリウス&アリス+エースな家族愛?小説でしょうか、たぶん。
いえ、アリス的には家族愛でも、ユリウスとエースは違う愛情を隠していそうです。
ただ、『ハートの国』では、いえ、『ハトアリ』では家族愛だと思って書きました。
そして、こういう友情以上恋愛未満が好きなのだと再確認しました!
なので、同好の方からの反応と挙手をお待ちしています!!