ユメ~クリスマス編~

「大佐さんは今日も自業自得な強制残業ですか?」

そう言いながら、ロイの執務室に妙齢の少女が入ってきた。

その少女は、ある日突然東方司令部内部に現れ、ロイの自宅で暮らすことになった。

そんな少女が、今日も司令部での雑務をこなし、事後報告に来たのでロイは短く応えた。

「……クリスマスパティーをしたいと言っていただろう?」

「大佐、それを実行されるにはこの山を処理して頂きます」

「え……?」

と、少女は驚きを隠す事が出来なかった。

それ程、ロイとホークアイの会話は少女の予想を超えていたから。

そんな少女に対し、ホークアイは自然な微笑みを添えて応えた。

「私達も貴女とクリスマスを過ごしたいの。大佐に独り占めはさせないわ」

「ホントですか! じゃあ、さっそく用意します!!」

「大佐の家には仕事を終えたハボック少尉達が居るわ。私達が合流するまで準備をたのんでも良いかしら?」

「もちろんです! じゃあ、大佐さんの家へ先に帰ってますね」

「私も大佐の仕事が終わり次第、準備を手伝うわ」

そうホークアイが答えると、少女はすぐにロイの家へと向かった。

そして、無言で書類を捌いていたロイに、ホークアイは拳銃よりも冷たい声で告げた。

「大佐、仕事が遅くなったら、彼女が哀しみますよ?」

「……私も最大限で努力はしている」

「はい。ここ数日はサボられていません。ですが、数日では日常的なサボりで溜まった書類は片付きません。バレンタインも考慮中でしたら、これからのサボりも考えてください。女タラシの看板を下ろしたのが、彼女の為なら」

そこまで的確に思考と行動を読み切ったホークアイに対し、ロイは白旗をあげた。

「流石は我が副官殿だ」

「言葉より実行です。それに、私達も彼女の幸せを願っています。もちろん、それは大佐次第ですが」

「……私は本気だよ。いや、本気にさせられた」

と答えるロイの瞳の真剣さをみせられたホークアイは次なる一手を口にした。

「彼女の戸籍等も考える必要がありますね。未来のファースト・レディに相応しい出自が」

「それは考えているよ。だから、ある筋に頼んでいる。任せておけば大丈夫だ」

「……では、この山を片付けてください。それが大佐のお仕事です」

「……私の居ない所で、ハボック達と一緒に過ごさせる訳にはいかんからな」

そう答えたロイは更に書類を捌くスピードをあげた。

そんなロイの杞憂に対し、ホークアイは少しだけ口元に微笑みを浮かべながら答えた。

「……あんなに一途な彼女へ、横恋慕をするような野暮ではありませんよ」

「そう願いたいな。ただ、私は人を……いや、『男』を信じていないからね」

「大佐ほど自分の欲求に正直な方はそうそう居ません」

と、ホークアイに一刀両断な答えを聞かされたロイは、沈黙を返す事しか出来なかった。

 

 

 

ロイの家に帰った少女は、ホームパーティの準備をしている4人に声を掛けた。

「ただいま帰りました。遅くてすみません」

「おー、待ってたぞ」

「あ、飾り付けは完成しそうですね」

そう少女がハボックの言葉に応えると、ブレダが少女に確認という問い掛けをした。

「ああ、料理の方は任せるぞ」

「勿論です。でも、お手伝いはお願いします」

「私はレシピくらいしか自信がないのだが……」

という、ファルマンの自己申告を聞いた少女は、明るいフォローを口にした。

「十分です。私の居た国との違いがわかれば、すごく助かります」

「あ、僕は皮むきくらいなら出来ますよ」

「ありがとうございます。じゃあ、下準備のお手伝いを頼みます」

そうフュリーに応えた少女は、すぐにキッチンに入って料理の準備を始めた。

その準備が終わり、料理をはじめようとした時、ハボックは不思議そうに問い掛けた。

「ずいぶん、楽しそうだな」

「だって、こんな風に過ごした事ってないですから」

「……両親は健在だったんだろ?」

と、ブレダもロイから知らされている情報を確認するように再び問い掛けた。

「ええ。ですが、仕事馬鹿な人達でしたから、家庭は二の次でした。それはそれで自由で、独りで生活する分には困りませんでしたけど」

「だが、友達が少ないようにも思えないが?」

「……そうですね。話し相手は多かったかもしれません。でも、友達はつくらなかったし」

そうファルマンの問いに対して応える少女に対し、フュリーは端的な問い掛けをした。

「え……どうしてですか?」

「……秘密です」

と、少女は意味深な笑み付きで答えた。

その意図を確かめようと、4人が口を開きかけた時、家の主が副官を伴って帰宅した。

「あら、まだまだ準備中だったのね」

「おまえ達、仕事が遅すぎるぞ」

2人の登場を、4人からの問い掛けの牽制とするように、少女はロイに問いかけた。

「サボりまくりで仕事が山積みになった人の言葉とは思えませんね?」

「……善処はする」

そう、ロイがサボりを止めるような答えを聞かされた少女は驚きから目を見開いた。

「……明日はホワイトクリスマスですか? 風情無き大雪にならなければ良いですけど」

「ま、大佐がそう言われるなら、オレ達も助かるな」

「そうだな。チェスをする時間が多くなれば、色々と助かる」

そう少尉組はロイの発言を軽く受け流した。

そして、更に下士官の2人は、情報とそれに対する問い掛けをした。

「……ちなみに明日は予報によると雪らしいですよ」

「それって、本当に異常気象になるという意味ですか?」

そんな、腹心の部下である4人の言葉を聞いたロイは、静かに発火布を取りだした。

「……おまえ達、ずいぶんと減俸が好きらしいな?」

「大佐、事実を突き付けられて報復するのは子供以下かと」

と、ホークアイはロイよりも静かに、だが異様な迫力を感じさせる声で牽制した。

そして、少女も異議を唱えさせない迫力ある微笑みを浮かべながら同意した。

「そうですね。お子様には洋酒がたっぷりのディナーはダメですよね」

「……わかった。今夜は無礼講だ。好きにしたまえ」

 

 

 

深夜前にパーティも終わり、ホークアイが帰宅したロイの家で、4人は飲み潰れていた。

そんな4人に対し、ロイは物置から取り出した毛布を少女の提案でかけていた。

「まったく、人の家を何だと思っている!」

「ヒューズ中佐が来られたり、招待されるよりは良いでしょう?」

そう問い返しながら、ロイに毛布を渡す少女は微笑んだ。

その笑みは綺麗だったが、問い返された言葉にある優しさは、ロイに嫉妬を抱かせた。

「しかし、大の男が4人もリビングにいては、君との聖夜を楽しめないぞ」

「……本気で、私が言った言葉を覚えているんですか?」

と、少女は驚きから単純な問い返しをする事しか出来なかった。

まさか、出逢ってから間もない頃にこぼした言葉を忘れていなかった事に対して。

そんな少女に対して、ロイは意味深な笑みをみせながら、話題を変えようとしなかった。

「……自分の居た世界を棄てる勇気を私は察する事は出来ないが、現状を改変させたい気持ちは理解できるつもりだ」

「でも、私が居た『世界』もそれなりに良かったですよ? 両親が優秀な官僚でしたから、金銭的に困らなかったですし、ほぼ独り暮らしだから自由でしたし」

そう答えた少女の表情は、「良かった」と語る言葉とは相反する哀しみに満ちていた。

だから、ロイはそんな少女を片手で抱き寄せ、そっと抱きしめた。

「……だが、それでは君が満たされなかったのだろう?」

「いえ、我がままなんです、私は。与えられた『幸せ』と『責任』を受け入れる事なく、背を向けたのですから」

「だが、覚悟もなく『現状』を受け入れてはいないだろう」

「そうですね。真理と交渉した事も、大佐さんと出合った事も、後悔はしていません」

と、答える少女はロイに対してまっすぐで綺麗な瞳を向けた。

そして、そんな瞳に魅せられたロイは少女の顎を掴み、更に顔を上向かせた。

「……ならば、覚悟したまえ。私を本気にさせた事を」

「……大佐さん?」

そう問い返した少女は、自身の鈍さと危機感がない為、ロイの意図を確かめようとした。

そんな少女に対し、ロイは互いの顔を近づけたが、途中で交わっていた視線を外した。

その意図を確かめるように、少女は問い掛けようとしたが、ロイの方が先に口を開いた。

「何時まで寝たフリをしているつもりだ。出歯亀が趣味にでもなったのか」

「いやー。起きるに起きれなくなっただけで……」

「そうですよ、いきなり口説きはじめた大佐の所為ですよ」

そう少尉組が弁明を口にしたが、ロイの怒りは収まらなかった。

それどころか、更に状況を読み切れていないファルマンをフェリーが止めようとした。

「大佐、出歯亀という言葉は使用方法が違います。本来の……」

「そんな事を言ってる場合じゃないですよ!」

「……ほう、わかっているようだな?」

と、ロイは4人に対して最後通牒のように、発火布を身につけて見せた。

それを見せられた4人は、身の回りの物を手に取ると、慌ててロイの家から走り去った。

「「「「失礼しましたー!」」」」

「流石は大佐さん、でしょうか?」

そう少女は、未だに自分を離そうとしないロイへ確認するように問い掛けた。

抵抗しない少女に対し、ロイは問い掛けに答える事なく、ただ再び顎を掴んだ。

「言っただろう、私を本気にさせた覚悟をしたまえ、と」

「私的にはいつごろ本気になったか、知りたいんですけど?」

「そうだな……私の部屋でなら答えても構わないが?」

と答えられた少女は、ロイの意図とこれからの状況を察し、大きな溜息をついた。

「……いま大佐さんの部屋に行くと、これからは自室で眠れる日が来ない気がします」

「それは正しいな。私はかなり独占欲が強いらしいからな」

「単純に強いと思います。というか、ホークアイ中尉を先に帰した理由が今わかりました」

そう少女が白旗をあげたので、ロイは再確認する様に互いの顔を近づけた。

「では、私を本気にさせた代価を払ってくれるのかな?」

「……言ったはずですよ。私の心は差し出さない、と」

「なら、その気にさせるまでだ」

と、ロイは状況を把握しても冷静な少女に対し、堕とすように意味深な笑みをみせた。

魅せられてしまった少女は、唯一動かせる視線だけを逸らすと顔を赤く染めた。

「……卑怯です」

「男は総じて卑怯だよ」

そう言い切ったロイは少女との距離をゼロにした。

そして、少女は抵抗する事なく、ロイの行為と想いに堕とされていった。

 

 

 

翌朝、ホワイトクリスマスとなった事を確認するよりも先に、少女は鏡を睨んでいた。

「あー。こんな所にも痕が!」

と、早朝から少女が大声を叫んだが、睡眠時間が無いに等しいロイはニコニコしていた。

「君に変な虫が寄りつかない為の予防線だ」

「私に寄ってくる虫なんてそう居ませんよ」

そう少女はロイの答えをきっぱりと否定すると、鏡とのにらめっこを再開した。

そんな少女の色恋沙汰に対する鈍さに対し、ロイは溜息をついた。

「……自覚がないのは良いのか悪いのか」

「大佐さん?」

と、少女は聞き取れなかったロイの小言を確かめるように振り返った。

だが、ロイは少女の問いに応える事なく、確認する様な問いを返した。

「君が私のだという印がそんなに嫌なのかね?」

「……こういうコトは秘め事にしておかないと、大望を達成した時の足枷になりますよ?」

そう答える少女の意図を知ったロイは、年甲斐もなく有頂天になった。

しかし、ロイはそれを隠すように、少女に対してはクールに答えた。

「その時は君が隣にいてくれなくては困る」

「え?」

「その為の準備は整えている段階だ」

「……でも、今夜は目立つ所はダメですよ?」

「……今夜はもう少し自制する」

と、ロイは珍しいくらい少女の問いに対して素直に応えた。

ロイ自身も、初めてであった少女との行為が性急かつ強引だったとの自覚があった。

なぜなら、軍人でもあるロイの体力に耐えられなかった少女は、何度も気を失っていた。

それ故に、少女は強く釘をさすように、再確認という名の宣言を口にした。

「当然です。今夜も朝までなんて続けたら、ホークアイ中尉に訴えます!」

「……ああ、わかっている。私のファースト・レディは君にしか務まらないからな」

そう応えたロイは、ホークアイからの制裁を予想して密かに怯えた。

そんなロイの心情を察した少女はニッコリと、だが意味深な笑みで再確認をした。

「では、大佐さんも覚悟してくださいね?」

「当然だ」

 

 

 

 

 

……おかしいです!

クリスマスにちなんだコメディなオールキャラ小説の予定がロイとの恋模様にすり替わっています!!

ただ、小さなネタを広げたら……オールキャラではなくロイがメインとなりました。

それに、このオリキャラの続きの予定はないのに、書きやすい事に気付きました。

なので、本気で短期連載してみるのも良いかな、と思っています。