7 君のいない世界は暗闇(お題使用1)

解放軍の拠点に近い事を報告する為、シルフィスはディアーナと共にアルムに近づいた。

その気配に気づいたアルムとその側近たちは、二人の少女達が近寄れるように配慮した。

その気遣いに対し、シルフィスはクライン風でも、失礼のない儀礼でアルムに告げた。

「失礼します、アルムレディン王子」

「そろそろ解放軍に着くのかな?」

と、アルムはシルフィスの報告を聞く事なく、気軽な口調で問い掛けた。

そんなアルムの態度は、堅苦しくも美しい敬意を示すシルフィスとは対照的だった。

そして、そんな二人の遣り取りを見たディアーナは、ただ美しい笑みを浮かべていた。

そんな三人の態度に対し、アルムの側近たちは何かを含むような視線で見守っていた。

「はい。そろそろ解放軍の天幕などを見る事が出来るかと思われます」

「そうか……すまないが、君と一緒のクラインの姫君との同行を許してくれないかな?」

そう問われたシルフィスは返す言葉を無くし、ただアルムを凝視しながら瞳を見開いた。

また、アルムの側近たちは意図を問おうとしたが、ディアーナが静める様に口を開いた。

「わたくしなどが近くにいては、お邪魔になるかと思われますので……」

「遠慮は要りませんよ、クラインの姫君。必要な打ち合わせは終わりましたから」

「ですが……」

と、ディアーナは状況を考慮し、アルムの甘く嬉しい提案を固辞しようとした。

しかし、ディアーナへの想いを隠そうとしないアルムは、甘く囁くような問いを返した。

「僕と一緒にはいてくれないのかい?」

そうアルムに問われたディアーナは、ただ身を固くしながらも強い視線と無言を返した。

だが、シルフィスはアルムの提案へ安易ともいえる態度で応えた。

「……では、我が国の姫の護衛をお任せしてもよろしいのですか?」

「シルフィス!」

と、ディアーナはシルフィスの態度を非難するように名を叫んだ。

しかし、当のシルフィスは硬い表情のまま、後ろの居たディアーナの背後へと移動した。

そんなシルフィスの言動に対し、アルムは素直な感謝と思いを告げた。

「ありがとう、シルフィス」

「いいえ。それでは、わたしは先導の任に戻ります」

そうシルフィスがこの場から辞すると、残されたディアーナは幼子の様にアルムを見た。

その視線に気付いた、いや、それを予測していたアルムは側近たちにも問い掛けた。

「……打ち合わせは終了で良いかい?」

「……はい。これ以上の打ち合わせは解放軍に着いてからの方が良いでしょう」

「わかった……感謝する」

と、アルムが素直な想いを告げる事に対し、側近たちはただ儀礼的に応えた。

「……いいえ、王子の『選択』が我々の『運命』なのだと信じておりますが故に」

「……」

「……よろしかったのですの、アルム?」

そう問われたアルムは、ディアーナに対し、甘さと優しさに満ちた視線と声音を返した。

「僕と一緒にいるより、彼女達との会話の方が良かったですか?」

「……いじわるを言わないでくださいまし」

「では、僕に遠慮は要りません。君が僕の『運命』なのだから」

というアルムの答えは、ディアーナに喜びと不安を同時にもたらした。

いや、アルムの言動はディアーナにこれ以上ない喜びを感じさせていた。

しかし、今、アルムとディアーナの関係と現状を理解しているが故に不安でもあった。

だから、ディアーナは素直な思いを吐露する様に、アルムへと問い掛けた。

「でも、アルムはダリスの正当な王位継承者となる方ですもの。しかも戦争を控えているんですのよ?」

「僕の心配をしてくれるのも嬉しいですが、もっと『先の運命』を語りませんか?」

「……先の運命?」

「確かに僕は王位継承者に戻り、ダリスの愚王を倒して国を元に戻す事への道が開けました。だからこそ、その先を考えてもおかしくはないでしょう?」

そう問い返すアルムは、先程まで難しい話をしていた者とは思えぬ言動だった。

しかし、それがアルムなのだと思うと、ディアーナはやはり相反する思いを抱いた。

「……わたくしも楽観主義者だと言われやすいですけど、アルムには勝てませんわ」

「楽観している所為ではありませんよ。今は君が傍に居るから、そう思うだけです」

というアルムの瞳が、揺れを感じさせない強さを秘めている事にディアーナは気付いた。

だから、難しい話をする硬い表情も、甘い言葉を囁きも、本気であった事にも気付いた。

そんなディアーナの変化に気付いたアルムは何かを企むような笑みを返した。

「これからの事を考えると、確かに楽観はできないけど、君が共にいる未来は明るくなったのだから、一緒に喜んで欲しいな」

「そうですわね。これからも女神の祝福が続く事を願いますわ」

「大丈夫ですよ。僕には女神以上の幸運をもたらしてくれる姫君がいるから」

そう言うアルムの軽口めいた甘い囁きに対し、ディアーナも軽口めいた言葉を口にした。

「では、アルムもわたくしに幸運をくださいますの?」

「もちろんですよ。でも、僕は嫉妬深いから、気をつけてください」

「それはわたくしのセリフですわ。アルムも覚悟してくださいまし」

「君以外の女性が目に入るほど、僕の視野は広くないですよ。安心してください」

と、アルムに言われたディアーナは、頬を赤く染めつつも負けまいとする勢いで応えた。

「それは嬉しいですけど、王となる方の視野が狭いなんて、民が苦労しそうですわ」

「視野が狭いのは女性に限ってですよ」

「ずいぶん都合の良い視野ですわね。今から色々と心配ですわ」

そう応えるディアーナの手を掴んだアルムは、その手の甲にキスをした。

そんな状況を理解していないようなアルムのキスはディアーナの瞳を見開かせた。

いや、これが社交場であれば、ディアーナへの手の甲へのキスは普通だっただろう。

しかし、状況故に、ディアーナも複雑な思いで見守っていたアルムの側近たちも驚いた。

「……あまり可愛い事を言わないでください。時と場所を忘れてしまいそうになるから」

「人目以上の問題ですわ!」

そうディアーナは、アルムの言動に対して抗議するように叫んだ。

しかし、そんなディアーナの抗議を、アルムはロイヤルスマイルでスルーした。

 

 

 

 

 

……今回の後半は甘く仕上がったでしょうか?

ディアーナ姫の言う通り、人目も場所も状況も問題がありましたけど。

ですが、精一杯な甘さに再挑戦しました。

 

 

 

恋愛の10題(11)お題配布元:疾風迅雷