アルムの仲間達の中でも側近と言える面々と共に、三人の少女達は解放軍へと向かった。
それはメイとシルフィスは想定内だったが、ディアーナへの視線の種類は想定外だった。
そう。
アルムの側近達の視線は単純な好意の視線は皆無で、何かを探るような視線が多かった。
しかし、アルムがディアーナに『選択』を任せた事は説得済みであった為、あからさまではなかった。
そして、そのような視線を浴び続けているディアーナは、いつもと変わらなかった。
そんな視線の意図に気付いたメイは、常と変わらぬディアーナの態度へ素直に驚いた。
「……ディアーナってばすっかり王族だね」
「どういう意味ですの?」
そう問い返すディアーナが、視線の意図を理解している事に対し、メイは素直に驚いた。
そして、メイとは違う意味で驚いているシルフィスも、素直な問いを返した。
「……この状況下でいつも通りだから、ではないですか?」
「それは王族だから、ではないですわ」
とディアーナは周囲を気にする事なく、淡々とした口調で答えた。
堂々といえるディアーナの態度は、メイとシルフィスと共に居る時と違っていた。
だからこそ、ディアーナの言動の意図を確かめるように、メイは再び問い続けた。
「じゃあ、どうして平気な訳?」
「わたくしだって、アルムの選択が『正しい』とは思っていませんもの」
「選択、ですか?」
そうメイと共に問い続けるシルフィスに対し、ディアーナは自嘲めいた笑みで答えた。
「アルムはわたくしに運命を『選択』させてくれましたけど、そう言い切れるまでの状況がわからないほど、わたくしも子供ではないですわ」
という、ディアーナの答えを聞いたメイは、視線に対する堂々とした態度に納得した。
「確かに色恋なんて個人感情だけで、一国を治めようとする者が全てを決めるなんて、諌められて当然かもね」
「……姫が選んだ『選択』は間違いだったと?」
そう問い続けるシルフィスは、ディアーナの事をただ心配する思いを言葉にした。
だからディアーナも、シルフィスの問い掛けに対し、正直な思いと言葉を返した。
「一国の王女としては『正しい』とは言えないでしょうね。でも、後悔していませんわ」
「なのに『正しい』とは思っていないのですか?」
「ええ。アルムを選んだことを、わたくしは一生後悔しませんわ。でも、『正しい』かはわかりませんの。わたくしの傲慢さも愚かさも、自覚はしているつもりですもの」
というディアーナの答えは、シルフィスに納得と正体がわからない負の感情を与えた。
そして、言葉通りに『後悔していない』ディアーナは、シルフィスに対して微笑んだ。
その笑みに対し、シルフィスは応える事が出来なかった。
だが、シルフィスが問い続けていた間、沈黙していたメイが真面目な声で問いを挿んだ。
「ま、『正しい選択』なんてもの、アタシ達にはわかんないのは当然だと思うけど?」
「どういう意味ですの?」
そうディアーナは素直な疑問をメイへと単純に問い返した。
いや、珍しいメイの真面目な声と言葉に対する驚き故に、ディアーナはそう問い返した。
そして、ディアーナの思いも、自分の言動の評価も知るメイは声音を変えずに答えた。
「そういうコトは後の世で、世間と歴史家が決める事だと思うからね。『今』を生きる者は後悔しない言動と選択をしてくしかないとアタシも思うよ」
というメイの答えは、ディアーナに眩暈を与え、とシルフィスに頭痛を感じさせた。
そして、ディアーナは感じる眩暈を隠す事なく、身体を支えるシルフィスを頼った。
「……これから戦だというのに、幸先が悪くなりそうですわね」
「……姫、それは言い過ぎかと」
そう言うシルフィスも、感じる悪い予感と、頭痛を隠す事はなかった。
そんな二人の少女の言動に対し、メイは感じる怒りを隠す事なく問いかけた。
「そうだよ、アタシだって、真面目に語りたい時だってあるんだけど?」
「わたくしだって、大雨なんて悪天候は望んでいませんわ。でも、驚く事ばかり起こっているから、つい心配になったんですの」
「それなら良いけど……あ、そろそろ解放軍が近いかも」
と言ったメイは、先程まで感じていた怒りよりも先の行動を優先した。
それはシルフィスも同じだったらしく、案内役としての任務を遂行しようとした。
「では、アルムレディン王子にお伝えしないと」
「わたくしも一緒で良いかしら?」
「ええ。メイと一緒よりも安心できます」
そうシルフィスが、ディアーナに答えたのを聞いたメイは、先程の怒りを思い出した。
「そんなコトばっかり言ってると、さすがに温厚なアタシでもキレるけど?」
「……ここはダリスですし、多くの国の方が集う場所にも近いんです。クラインの名をおとさないでください」
「そうですわ。いくら不満が多いからってファイヤーボールをぶつけてはダメですわよ?」
というディアーナの忠告は、更にメイの静かな怒りに火を注いだ。
しかし、静かな怒りだった為、メイの機嫌が悪化した事は、二人の少女だけが気付いた。
シルフィスは理論的にメイの変化に気付き、ディアーナは直感で気付いていた。
だが、それ故に、シルフィスはニッコリという言葉が見えそうな表面的な笑顔を見せた。
「では、メイには引き続き解放軍までの先導役を任せますね」
「……りょーかい。シルフィスの分まで、しっかり務めるわよ」
そうメイが嫌みを込めた答えた事に対し、ディアーナはロイヤルスマイルでかわした。
「まあ、さすがは温厚なメイですわね。頑張ってくださいまし」
「……」
前作からしばらく、オリジナル展開が続きます。
というか、ディアーナがアルムを選んでからEDに至るエピソードがほとんどないのです。
なので、妄想、いえ、想像するしかなくて。
想像した中編?小説はサイトにもUPしましたが、恋愛小説?といえるモノでしたし。
なので、私的な萌え中心ではなく、恋愛中心の展開を目指してみました。
ですが、今回もアルムとの甘い会話がなかったりしていますね……
すでに玉砕色は濃厚ですが、更にお付き合い頂ければ幸いです。
恋愛の10題(11)お題配布元:疾風迅雷