恋心

今日も今日とて、氷帝学園の新名物となった天才と呼ばれる忍足侑士とその有名人から求愛を受けている藤原静華の告白劇がはじまった。

「好きなんや!」

「ありがとう。でも、誰にでもそう言ってると、本命さんに誤解されちゃうよ?」

そう告白を一刀両断した静華は、いつもの様に撃沈した忍足を残して淡々とした様子で日常会話の様に答えてから教室からも去った。

「じゃあ、また部活で」

「……」

「諦めろ、忍足。本命さんが誤解しかしないぜ?」

そう宍戸は撃沈している忍足に現実を突き付けたが、忍足は現実も否定する様に宍戸の提案を拒絶した。

「いやや!」

「なら、誤解をされない言動をしろ」

「もう姫さん以外の女とは必要最低限の会話しかしてない」

「……その必要最低限が問題なんだろ」

と宍戸だけでなく同じ教室に居た跡部も忍足に現実を突き付けたが変わらなかった。

それだけ忍足の想いが本物で深いと思った跡部はスマホで静華に連絡した。

「……わかった。説得はしてやるよ。ただし、結果はお前次第だ」

「ほんまか! おおきに!! 感謝するわ!!!」

そう叫ぶ、否、歓喜の涙も流す忍足の様子から、不安を感じた宍戸が跡部に確認した。

「……本気か、跡部?」

「そろそろ、決着をつけねぇとあいつの身が危なくなるからな」

「確かに、今は忍足の異常行動を好奇で見てる奴ばかりだけど、あんな奴でもファンクラブもあるしな」

と跡部が言うように、今は忍足の唐突かつ異常な求愛行動は名物として認識されていたり、テニス部のレギュラー陣が静華を守っている為に大きなトラブルはなかった。

だが、それも時間の問題だと判断した跡部は、事態の収束をする為に解決しようとした。

「幼なじみの腐れ縁もあるし、うちのマネージャーだからな。辞められると問題だ」

「……お前は嫉妬とか、喪失感とかないのか?」

「あいつとは腐れ縁と女として意識する気もねぇ記憶ばかりだからな。お互いに異性として意識なんて出来ねぇよ。そうだろう、静華?」

そう跡部が答えると、教室から部室に向かったはずの静華が戻ってきた。

故に、跡部は静華に淡々とした口調で本音を告げる事を命じた。

「で、本命さんはどう思ってるんだ?」

「……忍足君の本命って、私なの?」

「そう思ってねぇのはこの学園ではお前ひとりだ」

「じゃあ、どうして今まで忍足君の女性遍歴を詳しく教えてくれていたの?」

「それを知ってねぇと覚悟も対等な関係も出来ねぇからだ」

と跡部から答えられた、否、現実を突き付けられた静華は沈黙した。

そして、あえて沈黙していた宍戸はあえて忍足に口を挟ませないように沈黙させていた。

故に、跡部は沈黙する静華の真意を言葉にする事を再び命じた。

「答えろ、静華」

「忍足君を私が独占できる?」

「それもお前次第だ」

「たぶん、好きだと思う。でも、忍足君の想いはわからない」

そう静華が忍足への好意を認めながらも現実を理解してないが故に跡部は溜息を吐いた。

「……あれだけあからさまな告白をされても理解できねぇなら、おまえに問題があるんじゃねぇか、忍足?」

「ほんまか、姫さん!」

という忍足は宍戸の拘束から逃れると静華の好意を確かめた。

また、静華も自身の想いを認めても現実、否、忍足の想いを理解が出来ていない為に再確認をした。

「えっと……本当に私が本命なの?」

「自分、本当にそれだけが問題なのか?」

「うん。だって、私のどこが好まれるかなんて……」

「駄目やで、姫さん。いくら姫さん自身でも、姫さんを貶めるのは駄目や」

そう忍足が答えると、あえて跡部が現実を突き付ける様に静華を説得した。

「その辺にしておけ。こいつならお前に惚れた理由を寝ずの一週間で語るか、気を失って足腰も立たない状態まで身体に教え込まれるぞ」

「そんなに褒められても、なんも出ぇへんで?」

「褒めてねぇよ」

という跡部と忍足の会話を聞いていた静華は小動物の様なおどおどした口調で告白した。

「……私と付き合ってくれる?」

「……条件を付けてもええか?」

「条件?」

「これから自分は俺の事を侑士と呼ぶ事、それが条件や」

そう忍足が静華の告白に応えると、跡部と宍戸は呆れたが、想定外だった忍足の条件に対して静華は戸惑った。

「……駄目、か?」

「そ、そんな事ないよ! ただ……恥ずかしいから」

「慣れれば大丈夫や。ほら、姫さん?」

「ゆ、侑士君……」

と静華が忍足の事を名前で呼ぶと、忍足は静華を抱きしめながら自身の表情を隠した。

忍足の純な少年の様に顔を真っ赤にしている事を知らない静華はただ応えを求めた。

「……侑士君?」

「安心しろ。これならヤられるのは、まだ先だ」

「そうだな。こんなに純情な反応なら、当分は大丈夫だ」

そう跡部と宍戸は忍足の純情と言える反応に白けた視線を向けたが、状況がわかっていない静華は忍足の腕の中で疑念を感じていた。

そして、静華を抱きしめている忍足は跡部と宍戸の憶測を否定せずに独占欲だけを示した。

「姫さんを穢せるのは俺だけや! いくら幼馴染みでもそれは許さへんで!!」

 

 

 

 

 

初の氷帝は忍足侑士となりました。

そして、この小説の冒頭の会話が思いついてから、すぐに書き上げてしまいました。

「本命さんに誤解される」のは跡部でもアリだと思いますが、あえて今回は忍足でした。