欲望と充足

性別を感じさせないフランクさが静華の良い所だと思っていた。

そして、テニスに関して理解があるのも良いと思う。

だが、なんでも正直に訊ねるのだけは勘弁してほしいと今日ほど思った事はない。

なぜならば……

 

 

「ねえ、源一郎」

そう彼女である藤原静華に問われた真田弦一郎は淡々とした表情で問い返した。

「なんだ?」

「学生だからってキスしかしないのは私的には問題ないけど、男の場合は困らない?」

「……どういう意味だ?」

「え? そのまんまだよ。生ゴミの日とかってあるんでしょ、男の場合」

という静華の言葉、否、ここが人は少ないとはいえ校内である事を気付いていない失言としか思えない真田は絶句した。

だが、その様な真田の絶句に気付かない静華も日常会話の様に淡々とした口調で問い続けた。

「それに、いくら弦一郎がストイックでも、性欲が無い訳じゃないでしょ?」

「な、な、何を……」

「別に妊娠しない方法でも性欲を充たす方法もあるし、それを理由に浮気されたら嫌だし」

そう静華の発言の意図が全く分からない真田はただ言葉を遮るように叫んだ。

「な、な、何を言っているんだ!」

「だから、セックスじゃなくてシックスナ……」

という静華の発言を止めようとした真田は強引に口に手を当てる事で遮った。

それから、真田は静華の真偽を問う様に強い視線で答えも強要した。

「ここが学校だとわかっていて言っているのか、静華!」

「だって、これから大会とかでデートできる状態じゃないし。学校以外で話せる機会なんてないじゃない」

「だ、だからと言って女が……」

そう真田が静華への詮議をしようとすると、その会話を遮る様に幸村が声をかけた。

「ふふふ、相変わらず真田を掌で転がしているね、藤原」

「天下の魔王、幸村サマにそう言って頂けるとは光栄の極みです」

と静華がおどけた様子で最敬礼をすると幸村は王者ともいえる雰囲気のまま微笑んだ。

「ははは。そう言えるのも藤原の特権だよ。俺の事を深く知って、関わってくる人は貴重だからね」

「あ、じゃあ、特別ついでに1つ質問」

「真田の性欲に関してかい?」

「さっすがは魔王様。全てお見通しですか」

「でも、さすがの俺でも真田の性欲処理方法は知らないよ? というか興味がないし」

「……幸村」

そう真田が会話に割り込んできた幸村の名を低い声で口にした。

すると、幸村は会話に割り込んだ事ではなく、真田が知りたい静華の質問の意図を明らかにした。

「ははは。大丈夫だよ、真田。藤原はただ心配しているだけだから」

「性の不一致って離婚の原因になりやすいっていうし」

と静華から告げられた真田は言葉の意図を理解する事が出来なかった為に説明を求めた。

「離婚? 俺達は結婚などしておらんだろう」

「真田と付き合うなら、結婚くらい視野に入れているわよ」

そう静華が断言すると、再び真田は絶句し、幸村は破顔といえるくらい満面の笑みを見せた。

「藤原、それは男の台詞だよ。相変わらず漢らしいね」

「それは褒め言葉?」

「もちろん。だから1つ忠告」

と幸村が破顔から少しだけ真面目な表情になると静華も相応の表情で忠告を聞こうとした。

故に、幸村はその様な静華の反応に満足すると意味深な笑みを見せた。

「俺達の年頃の男が欲情しやすいのは当たり前だけど、個人差があるってことだよ」

「個人差?」

「真田には真田なりの欲求と充足があるんだから、よく話し合った方が良いよ」

そう静華に答えてから真田にテニス部の書類を渡した幸村はすぐに去った。

そして、幸村から真田に問うた事への答え、否、提案をされた静華は自身の問いが勘違いであるかという確認をした。

「……私は早とちりをしてしまったのかな?」

「……お前は相変わらずだな」

と静華に答えた真田が溜息を吐いた為、静華はあえて静かに真田の答えを待った。

「俺がお前を抱きたいと思わない日などない。だが、もしもの場合の責任が取れぬ学生である間、それは禁忌だと思っている。それに俺はお前と交わすくちづけだけでも満足している。だから余計な心配をするな」

「わかった。じゃあ、責任を取らなくてもいい方法で……」

そういう静華の発言、否、先程から誘惑しているかと言えない様な言動に対して、真田は自身の唇で遮った。

そして、真田からキスをされた静華は少しだけ目を見開いてからすぐに瞳を閉じた。

だが、互いの唇を重ねるだけで満足している事を証明する様に真田はすぐ離れると静華に淡々とした口調で問い返した。

「これだけでは満足できんのか?」

「……源一郎が良いなら、私も良いよ」

と真田に答えた静華は満面の笑みで応え、故に真田は静華の手を取ると互いの指を絡める恋人つなぎをしてから教室へ戻る提案をした。

「では、教室へ戻ろう。昼休みもじきに終わる」

「うん。帰ろうか、弦一郎」

 

 

本当はもっと静華に触れたいし、触れられたいとは思っている。

だから、責任という言葉はそれを抑える為の言い訳にすぎん。

だが、それに気付いているから、静華はああいった発言をしたのだろうし、幸村も口を挟んできたのだろう。

……ああ。ただ俺は静華に触れたくても触れられないジレンマに陥っているだけだ!

しかし、静華とは生涯を共に過ごすと俺も決めている。

だから、多少の遠回りも許せ。

 

 

 

 

 

初の立海小説は真田弦一郎となりました。

というか、コミックスや二次創作を読んでいて、真田の恋愛模様が異様に気になった結果、ともいえるかと。