思慕

視線も交わす事も望まずに、ただ土方を想う千鶴。

千鶴の想いに気付くが故に、互いの想いと視線を拒む土方。

それ故に、沖田は楽しげに二人を眺めていた。

また、斎藤は互いの想いを思うが故に一人で葛藤していた。

そして、平助は誰でも察する事が出来るくらい思い悩んでいた。

だが、原田も思い悩んでいたがあえて傍観する事を選び、二人の想いを守ろうと思った。

それから、色恋沙汰に鈍い永倉は二人の関係に気付いていないがぎこちなさを感じていた。

そして、山崎は土方の思いと千鶴の想いを察するが故に何も言えなかった。

その様な空気を察している井上は葛藤も傍観もせず、ただ二人を見守っていた。

この様な二人の想いを知ってもなお、近藤は土方と千鶴を信頼して経緯を見守った。

 

 

その様な幹部達の思いも察している沖田は、悪巧みを隠さない意地の悪い笑みを見せた。

また、沖田の表情を敏感に察した土方は、制する様な視線を向けた。

「これから捕物だってぇのに、ずいぶんと余裕だな?」

「そうですね。無自覚でお花畑な思考の人もいますし?」

そう沖田が鬼の副長の小姓で幹部達のお気に入りな千鶴に魅了される者達を牽制した。

否、その様な牽制を恩として売り、近藤と共に過ごす休暇を無言で要求した。

故に、土方は妬心と独占欲をあからさまに示す様に、捕物に行く隊士達の手伝いをしていた千鶴を呼び寄せた。

「千鶴! こっちに来い!」

「鬼の副長も人の子だったんですね」

と沖田が土方の事を揶揄すると、千鶴に横恋慕をしている面々は鬼の副長を恐れて視線をあからさまに逸らした。

その様な周囲の態度と土方の悋気が楽しいと思った沖田は楽し気に会話を広げようとした。

だが、その様な状況でなはいと判断した千鶴はただ状況を伝えようと土方の名を口にした。

「あ、あの、土方さん!」

「……そうだな。こいつへの説教は後だ。行くぞ!」

そう土方は捕物に命じた実働部隊を率いる様に声高に叫んだ。

その様な土方の背を少しだけ寂しそうに千鶴が見た為、沖田は意味深な笑みを見せた。

「それでいいんだよ、千鶴ちゃん。土方さんは自分の女に傷をつける趣味はないから」

「……ただ、私は土方さんのお傍に居たいだけです」

「そうだね……君は良い子だね、千鶴ちゃん?」

という沖田の言動から悪意と殺意を感じた千鶴は自衛するように身を固くした。

「そうそう。それくらい警戒し続けて、キズモノにならないでね。土方さんの為にも」

その様な沖田と千鶴の会話と土方の対応を見守っていた斎藤はある一つの決意をした。

 

 

大捕物を成功させた土方は、後始末も命じた斎藤からの報告を聞いた。

そして、土方への報告を終えた斎藤はあえて自室へ戻らず、決意した斎藤は土方に問うた。

「……副長、そろそろ所帯を持った方が宜しいのではありませんか?」

「俺にそんな暇なんてねぇよ……それとも、何かの献策か?」

「いえ、献策と言うよりも……馬に蹴られる覚悟がある、でしょうか?」

そう問い返した斎藤は土方から問われた意図へと正確に答えた。

故に、土方は溜息を吐きながらも仕事の合間に答えた。

「本当にお前たちは双璧だな。総司も余計な世話をしやがったぞ」

「……」

「俺の答えは変わらねぇ。千鶴の想いを軽く思っていねぇし、俺も自覚はしている。だが、千鶴は片恋で満足して、今の俺に色恋沙汰に関わる暇はねぇ。だから、俺は所帯も持たねぇよ」

「……本当にそれでいいのか、千鶴?」

と斎藤は土方にお茶を持ってきた千鶴に問いかけた。

「はい。私は土方さんのお傍に居たいだけですから」

そう千鶴が答えると、土方は無言で書類仕事を集中し、斎藤は厳しい視線を返した。

故に、たまたま居合わせた三馬鹿はあえて三人の会話に割って入った。

「なんで、そんなに無欲なんだよ、千鶴!」

そう平助は千鶴の無欲さ、否、自身の恋情を殺す事を選ぶのかと憤った。

「……私に出来る事なんてお茶を淹れる事くらいだし」

「そんな事ないって! 千鶴が作る飯は本当に美味いし……」

という平助の主張、否、千鶴を褒め称える言動が行き過ぎたと思った原田はあえて止めた。

「それぐらいにしておけ、平助。千鶴を口説く気がないなら、な」

「そうだぜ。傍から聞いてたら平助が千鶴ちゃんを口説いていると言われても言い訳が出来ねぇからな」

「なっ、俺はただ親切心から……」

「ありがとう、平助君。私は大丈夫だよ」

そう千鶴が感謝を言葉にすると、あえて聞き流していた土方が口を挟んだ。

「てめぇらはとっとと寝やがれ! それとも死番でも増やされてぇのか?」

「嫉妬で死番を増やしてたら大変だぜ?」

「ただ、俺は暇ならば仕事を増やしてやると言っただけだ」

と土方が論点をすり替えようとしたが、色恋沙汰に鈍い永倉もそれを許さなかった。

「すっ呆けても無駄だぜ、土方さん」

「今回は引かないぜ、土方さん!」

そう平助からも告げられた土方は喧嘩を買う様に応えた。

「お前たちの気遣いが無用だと確かめる気があるってぇなら、幹部達を俺の部屋に集めろ」

と言われた面々は沖田や井上に声を掛け、騒ぎが気になった近藤も土方の部屋に集まった。

集められた面々とその素早さに土方は苦笑いながらも、あえて見せつける様に土方は千鶴の腕を掴んでから艶やかな視線で見た。

その様な土方の言動に対し、千鶴は意図を問う様な真っ直ぐな視線を返した。

それを見せられた、否、想像もしていなかった面々は千鶴の鈍さと土方の苦労を感じさせられた。

そして、その様な土方と千鶴の現状、否、現実を突き付けられた沖田と斎藤は謝罪した。

「……ごちそうさまです。句もそれぐらいよめると良いですね」

「千鶴、すまない」

そう沖田と斎藤はただ謝罪したが、永倉と原田は土方の苦労に対しても謝罪した。

「……いや、この場合、土方さんの方が大変だって」

「そうだな。惚れ合っている相手からあの視線でも無邪気に頬を染められたら……俺でも自信なくす」

また、井上は深夜に呼び出された意図を察し、苦笑いながらも状況を収めようとした。

「とりあえず、手を放した方がいいと思うよ、トシさん?」

「そうだな。嫁入り前の娘さんにする事ではないぞ」

そう鷹揚に告げた近藤は、場を収束させようとする井上の言動に同意した。

だが、現状を理解していない、否、鈍い千鶴は土方の言動と状況の説明を求めた。

「……あの、私の手に何かついているのでしょうか?」

という鈍すぎる千鶴に対し、平助はあえて助言だけを言葉にした。

「……千鶴はもっと自覚した方がいいよ、いろんな意味で」

「これ以上は野暮だと思わねぇのか? こういう無垢さを染めるのも一興だからな」

そういった土方は千鶴の腕をすぐに解放し、土方の言動も理解が出来ない千鶴は困惑した。

その様な土方と千鶴の行く末が楽しいと思った沖田は意味深に微笑んだ。

また、斎藤はただこの状況の打破できない事をただ憂いた。

それから、土方と千鶴の恋路がただ心配な平助は内心で葛藤した。

そして、その様な面々のおもいを察する事が出来た原田はただ苦笑った。

また、原田のように色恋沙汰を達観できない永倉は斎藤とは違う意味で憂慮した。

そして、原田とは違う意味で状況を俯瞰で理解している井上はただ見守る様に微笑んだ。

それから、千鶴とは違う意味で楽観視ている近藤はただ鷹揚に土方の意見に同意した。

 

 

 

 

 

皓月庵(サイト)様への寄稿小説ですが、当サイトでは美麗イラストのUPが出来ていません。すみません。

また、この小説も土方が千鶴に一目惚れをした設定の小説と同設定となっています。

とりあえず、土方が千鶴に対してデレ方になりやすく、千鶴も土方に恋心を抱いていると知って頂ければ大丈夫かと。

また、無垢な千鶴を土方なりに染めた続編は現在執筆中です。

ただ……ひじちづというよりも沖田さんの大活躍で終わりそうなので、書き直すかを悩んでいます。

そして、この寄稿小説はラストの直参だったスパークの無配でした。

そのペーパー版をご希望の方は11月30日までにメールでお問い合わせください(送料はご負担をお願いします)