プロミス 第7話

主役である新王と、その妹のディアーナもパーティーでは大人数に囲まれていた。

王位継承者として認められたディアーナにも、様々な思惑を持つ人々が群れていた。

その為、騎士を辞してキールの妻となったシルフィスが、友人兼警護役を務めた。

「ふう……」

そうシルフィスは、貴族達との遣り取りが一段落ついた時、小さな溜め息を吐いた。

なので、ディアーナは余裕を感じさせるような口調でシルフィスに問いかけた。

「あら、姫を守るナイト様がもうリタイアですの?」

「いえ、こんなに貴族の方々と話す事など無かったものですから」

「そうですわね、わたくしも思惑付きの老人達と話す機会は少なかったですわ」

と言ったディアーナが、クスクスと笑った。

近くに居なければ聞こえないような小声だったが、生真面目なシルフィスは声を荒げた。

「姫!」

「大丈夫ですわ、シルフィス。これくらいで気分を悪くするのは小物ですもの」

「そうかもしれませんが、姫の御身は今お一人のモノではないんですよ」

「まあ、わたくしが結婚をして子を宿したみたいですわね」

新王となった兄に似た、天然毒を吐くディアーナに、シルフィスは冷たく問い返した。

「……陛下達に密告してもよろしいのですか?」

「そ、それはダメですわ。聞かなかった事にして頂戴、シルフィス!」

「やっぱり立場が変わっても、ディアーナはディアーナだね」

「あら、メイにア……」

そうディアーナが、メイとその後ろに居る男の名をいつものように口にしようとした。

なので、シルフィスは遮るように、周囲の注意を集めるような大声でメイに問い掛けた。

「どうしたんですか、メイ?!」

「いやー、姫を守るナイトには足りないけど、割って入るのは得意技だから」

と答えるメイは、いつもの朗らかな笑顔で連れてきた男に、ディアーナの前を譲った。

すると、その男はディアーナの前を譲られると優雅な礼と言葉を口にした。

「申し訳ありません、ディアーナ姫」

「わたくしに何か御用でしょうか、ダリスの新王様?」

「ダンスが始まったのに、ディアーナ姫君程のお方が壁の花になるおつもりですか?」

「では、私の相手をして頂けますか、ダリスの新王様?」

「身の余る光栄です、ディアーナ姫」

と答えたアルムは、周りに一礼をしてから、ダンスの輪の中に入った。

そして、アルムレディンは注目を集めるような華麗なリードで周囲の視線を独占した。

それに気付いたディアーナは、囁くような小声でアルムレディンに問いかけた。

「わたくしを初めてのパートナーにして良かったのですの?」

「僕の花嫁となる女性こそ、初めてのパートナーとなるべきですよ、姫」

「え?」

そうディアーナが予想通りに驚いた為、アルムレディンは自然と微笑んだ。

だから、アルムレディンは、先ほど感じた嬉しさを隠さずにディアーナに告げた。

「セイリオス殿が約束を果たしてくれました」

「約束……」

「今度こそ、君を永遠に離さないと誓えるよ」

と言われたディアーナは、優雅にダンスを踊りながら、瞳に浮かぶ涙を耐えようとした。

そして、耐えようとしている涙と共に溢れる嬉しさを、ディアーナは口に出せなかった。

「アルム……わたくし……」

「祝いの席に涙は似合わないよ。それに、君を泣かせたと知れたら、結婚が先延ばしになってしまうかもしれないね」

そうアルムレディンは、ディアーナの涙を言葉と笑みで拭おうとした。

するとディアーナは、瞳に溜まった涙を少しだけ流しながらも言葉も口にした。

「それはダメですわ!」

「なら、笑ってくれるかい? 君には笑顔が一番だよ」

というアルムレディンが微笑むと、ディアーナも満面の笑みで応えた。

「はい、ですわ」

 

 

 

「ほんと、お似合いだよね、ディアーナとダリスの王様は」

と、メイはダンスを踊るアルムレディンとディアーナを素直に称賛した。

側にいたシルフィスも賛同しながらも、近づいてくる気配に対して問い掛けた。

「そうですね。妬けてしまわれるのではありませんか、新王様?」

「……流石はシルフィスだね。気配は上手く消したつもりだったんだが」

そう答えながらセイリオスは、いつものロイヤルスマイルとは違う自然な笑みを添えた。

だから、メイも軽い口調で、セイリオスに問いかけた。

「気配っていうより、シルフィスらしかぬ冗談は肯定なの、新王様は?」

「当然だよ、私はシスコンだからね」

さも当然と言った口調で言い切るセイリオスに対して、メイは素直に呆れた。

「……それって自慢できるコトじゃないよ、新王様」

「メイ、今は公式の場ですよ」

「私は構わないよ。それに私達の会話を聞いている者も少ないだろう?」

と、セイリオスはあくまでも生真面目な態度を崩さないシルフィスに問い返した。

するとシルフィスは、アルムレディンとディアーナの姿に再び視線を戻した。

「……確かにお二人から視線を外すのは難しいですね」

「そうだね……」

シルフィスを魅せたアルムレディンとディアーナのダンスはメイをも魅了していた。

同感であったのか、セイリオスも眩しそうに少しだけ目を細めてから呟いた。

「私の周りにいた者達も二人のダンスを見てからは虜となってね。おかげで私は余裕で抜け出す事が出来たよ」

「そんなコトしたら、シオンが小言を言うかもしれないよ?」

そうメイがいつもの調子で問い掛けると、急に現れた気配の主に答えを奪われた。

「そうそう。それに、シルフィスとメイが有能でも、まだまだ新王様の護りは荷が重いぜ?」

「シオン様!」

「パーティーは裏方担当じゃなかったの?」

と、メイとシルフィスが驚きの声を上げたが、セイリオスは声もあげなかった。

その反応を予測していたシオンは、いつもの軽い調子でメイとシルフィスに答えた。

「そうしたかったんだが、ジジイ共が新王様の姿が見えないとうるさくてな」

「……すまない、シオン」

そう短く答えるセイリオスに対して、シオンは少しだけ真面目な表情で応えた。

「ま、今日くらいは大人しく聞いてやるよ。おまえは王位を継いだんだからな」

「……じゃあ、もう少し報告は黙っててくれる?」

「そりゃあ……」

そうシオンが、メイの意図を察して了承しようとしたが、セイリオスがそれを拒否した。

「いや、充分だ。有り難う、メイにシルフィス」

「お礼を言わるコトじゃないよ、新王様」

「それは私も同じです。」

「頼もしいこった。じゃあ、姫さんとダリスの新王様はまかせた」

と、いつもの調子に戻ったシオンに言われたメイは、その意図を探るように問い返した。

「まさか、あの二人をこっそりパーティーから逃せ、なんて言わないでしょうね?」

「いーや、詮索好きの貴族共が二人を正しい関係で噂するように頼んだぞ」

「それって逃すより難しいじゃない!」

そういう答えを予測していたセイリオスは、申し訳なさそうに、だが王として告げた。

「すまない。だが、二人の関係を上手く公表できる状況は利用したいんだ」

と、セイリオスから真摯に頼まれたメイとシルフィスは、断るに断れなくなった。

メイとシルフィスも有能であったが故に、セイリオスの意図にも想いにも気付いたから。

「……わかったよ、新王様。私だってディアーナにも幸せになって欲しいからね」

「……微力ながらその務め、果たさせて頂きます」

「頼もしい返事を有り難う。では、安心して私も自分の務めを果たそう」

そうメイとシルフィスに応えたセイリオスは、シオンに無言の案内を求めた。

それへ答えるように、シオンはクラインの王に即位したセイリオスへ相応の礼を尽した。

「では、案内をさせて頂きます、クラインの新王様」

 

 

 

メイとシルフィスの協力もあり、ディアーナとアルムレディンは結婚する事が出来た。

その結婚式で、新婦のディアーナへ、新郎のアルムレディンが少しだけ不安を口にした。

だから、深夜の寝室で二人となったディアーナは、アルムレディンに問いかけた。

「……今も不安でして?」

「そうだね。君を抱きしめたら消えてしまうかもしれないからね」

そう答えたアルムレディンは、そっとディアーナを抱きしめながら自嘲した。

抱きしめられたディアーナは、アルムレディンの表情が見えなかったが、強く否定した。

「わたくしはアルムの側から離れませんわ」

「僕も離す気はないよ。いや、離せない。離す事になったら……」

「なったら?」

「君を僕だけが知る場所に閉じ込めてしまうかもしれない」

「え?」

そう問い返したディアーナは、強く抱きしめるアルムレディンの意図を探ろうとした。

そんなディアーナの反応を予測していたアルムレディンは、更に自嘲を深めた。

「僕だけしか頼れず、僕の事しか考えられず、僕だけを見ている、そんな君を望むのは……やはり愚かだね」

そう自嘲を繰り返すアルムレディンに対して、ディアーナは端的に同意した。

「わたくしだって、アルムを独占したいですわ」

「え?」

「わたくしだって、必要な事だとはいえ、アルムが他国の美しい姫や女官に囲まれている時は嫉妬していますもの」

という、ディアーナの答えはアルムレディンが抱える想いとは明らかに違った。

だが、ディアーナの想いが嬉しかったアルムレディンは、自然な笑みを添えて答えた。

「……そこまで想われているは、嬉しいですよ、姫」

「アルムは嫉妬や独占が好きなの?」

そういうディアーナの素直な問いに対して、アルムレディンは苦笑いで問い返した。

「そんな男はお嫌いですか?」

「アルムがアルムである以上に必要な事なんてありませんわ」

「そうだね。僕も君がディアーナである事が一番だよ」