プロミス 第4話

「あら、アイシュ。今日はいくつでも課題でも宿題でも出してくださいな」

そうディアーナに言われたアイシュは、入室の挨拶も返事も忘れて固まった。

なので、一緒に訪れたシルフィスが口を挿んだ。

「いえ、今日は姫へアイシュ様と一緒に作ったお菓子を持って来たのですが」

「まあ、シルフィスも来てくれたのね」

と答えながら微笑むディアーナに対して、アイシュは疑問を問い返した。

「あの~どうなされたんですか~?」

「……アイシュ様、姫がご機嫌なのはあの理由だけでしょう」

そうシルフィスが答えると、アイシュは答えとディアーナの上機嫌の意図に気付いた。

「ああ~おめでとうございます~姫様~」

「ありがとうですわ、アイシュ。それにシルフィスもその為にお菓子を焼いて下さったのでしょう?」

「こんな事しか出来ないですけど」

と答えたシルフィスは、初めて表情を曇らせた。

だが、ディアーナは満面の笑みをシルフィスに向けて答えた。

「どんな高価なものよりも、わたくしには嬉しい祝いの品ですわ。だから、シルフィスの時は豪勢に祝わせてくださいな」

「わたし、ですか?」

「今はダリスで任務遂行中ですけど、そろそろ帰国する予定でしょ?」

そうディアーナに問いかけられたシルフィスは明確に答えずに戸惑っていた。

「えっと……」

「あら、アイシュにはまだ隠していたのですの?」

と、ディアーナはシルフィスの迷いを的確に当てながら意地の悪い笑みで問い返した。

シルフィスの事情も、キールとの関係も知らないアイシュは首を傾げた。

「え~? 隠し事~??」

「うふふふ、わからないなら、楽しみにしておくべきですわ。家族が増える事を」

「姫!」

「家族~?」

キールとの関係にまったく気付かないアイシュは、ただ問い返す事しか出来なかった。

そして、シルフィスの事情を知っているディアーナは、からかう事よりも現状を憂いた。

「まあ、わたくしが嫁ぐまでに決着をつける甲斐性が、アレにあれば良いのですけど」

「……そうですね。今度はわたし達とこのように話せる機会もなくなるのですね」

ようやくからかう事を止めたディアーナに対して、シルフィスは近い未来を悲しんだ。

そうシルフィスが悲しむのを止めたいディアーナは満面の笑みを添えて応えた。

「わたくしがダリスヘ嫁いでも、いつでも遊びに来てくださいな。歓迎しますわ」

「ありがとうございます、姫」

「はい~。長い休暇を~頂けた時には~是非~」

 

 

 

「どういうつもりだ、セイル!」

と言いながら、セイリオスに詰め寄るシオンを同席したメイが押し止める。

だが、そんなシオンの強い追及に負けないくらい強い口調でセイリオスは答えた。

「私は言ったはずだ。王に即位すると」

「だから、王妃は? 現状で独身の王など許されないのはわかっているだろ!」

そう問われたセイリオスは沈黙を返した。

なので、メイは閉ざしていた口を開き、セイリオスに確認を促した。

「……殿下、ディアーナの結婚には王妃の存在は必要不可欠だよ。それもわかってる?」

「私は元老達の為に即位するのではなく、民が必要とする王になるつもりだ」

「民が必要とする? それこそ安定した執政者と明るい未来だ」

と、シオンに断言されたセイリオスは、再び沈黙を返した。

そんなセイリオスの意図に気付いていたメイは、再び冷静な口調で口を挿んだ。

「じゃあ、ディアーナにも重荷を負わせるつもり?」

「どういう意味だ、メイ?」

「殿下は……」

 

 

 

「書類の進み具合も快調ですね。今日はどのような話をお望みになるのですか?」

と、レオニスは壮絶な表情で書類を高速で捌いているアルムレディンに問いかけた。

するとアルムレディンは先程までの表情が嘘のような笑顔で問い返した。

「それは君達次第だね。どれくらい休ませてもらえるんだい?」

「新王陛下が我々を話し相手に、というお言葉を頂いてからは無制限になりました」

「……そのように裏から手をまわされているのでしょう?」

そう言うキールは端的に、だが、彼らしい深い洞察力で状況の変化を見抜いた。

そんなキールとレオニスの真面目さに苦笑いを添えながら応えた。

「僕はディアーナ姫とクラインの事を深く知ろうと未来の為に思っているだけだよ」

そう問い返されたキールは、素直な疑問をアルムレディンへ問い返した。

「クラインの事も?」

「現クライン王家の事情を考えれば、ディアーナ姫を国外へ嫁がせた場合、王妃の存在は必要不可欠だろうだからね」

「……親クライン派を強調するのは、セイリオス殿下の婚儀を助けようと?」

と、レオニスがアルムレディンの意図と配慮に気付き、確認するように問い返した。

「セイリオス殿下の様な方が、今まで恋の噂を立たせないのは、障害が多い女性がいるのかと思っていたのでね」

「……クラインの皇太子が重度のシスコンなのは噂以上の事実ですからね」

「そうだね。話を聞くまで、それほど妹姫に傾倒しているとは思わなかった。そして、隠された女性の影もないとは……」

「現状を知った今は、どのように思っておられるのですか?」

「僕は……」

そうアルムレディンが答えようとした時、執務室の扉をノックする音が響いた。

「ご休憩中に申し訳ありません。クラインの事で急ぎお知らせする事が」

「入室を許す」

「はっ」

そう入室してきた近臣は、王の風格を漂わせるアルムレディンへ確認するように見た。

その視線に気づいたアルムレディンは、退室しようとするキールとレオニスを止めた。

「……この2人はクラインの関係者だ。そして私が強く信頼している者でもある」

「いえ、機密ではないので……クラインの皇太子が王へ即位する事になったのです」

そう近臣が答えたので、アルムレディンは意図を確認するような問いを返した。

「セイリオス殿下が?」

「はい。しかも王妃を持たず、妹姫と……」

「なぜ言葉を濁す?」

「……ディアーナ姫とアルムレディン陛下の子を後継者にしたいという内意を問う文章が」

「なんだって!?」

 

 

 

「本気で即位する気があるのか、セイル!」

と、シオンが怒鳴りながらセイリオスの執務室に入ってきた。

それを予測していたのか、セイリオスは捌いていた書類から目を離そうとしなかった。

それ故に、シオンは少しだけ冷静さと己を取り戻してからセイリオスへ問い直した。

「メイが言っていた事は本当か?!」

「その事は既にダリスヘ打診しているところだ」

「俺に内密で……本気か、セイル?」

シオンに再確認を求められたセイリオスは、はじめて書類から目を離してから答えた。

「私は民の『モノ』だ。そして『王』となる覚悟も決めた。だが……女性を娶る事は……『後継者』を産むだけの王妃を作る気はない」

「だが、王には必要な事だ。それはわかっているだろ」

と、シオンはセイリオスの答えを即座に否定した。

互いに口にする言葉がわかっていたが、セイリオスもシオンも、あえて言葉を口にした。

「それでも……私のような人間を増やす気も、不幸な女性も生む事はしたくない」

「……お前と婚儀を結ぶ為だけに、お前との子を宿す為だけに育てられた女なんて、何人もいるんだぞ。そして、それを不幸と思う女は少ないはずだ」

「……では、こう言おう。ディアーナ以外の後継者を残すつもりなどない、と」

そこまでセイリオスに言われたシオンは、真意を問うように素直な驚きを口にした。

「セイル、まさか!」

「ディアーナへの想いは『妹』に対する過剰な親愛だ。そして、私は私の血を王家に残す気がないだけだ」

そう答えたセイリオスの真意を確かめるようにシオンは無言を返した。

だからセイリオスは、シオンへ謝罪するように瞳を伏せながら言葉を続けた。

「シオンにも内密に事を勧めた事は謝る。だが、意志を変えるつもりはない」

「……わかった。姫さんの保護は俺とメイに任せろ」

「シオン……」

想いを理解してくれた親友に対して、セイリオスは名を口にする事しか出来なかった。

そして、理解したシオンはセイリオスの想いへ応えるように軽口を口にした。

「だが、俺は保護だけだ。元老院や国民を納得させるのはお前と姫さんの役目だぜ」

「ありがとう、感謝する」

「ま、このシオン様に任せておけば、姫さんの身の安全は確保されたも同然だ」

「そうだな。頼りにしているよ、シオン」