ヒイロが帰宅する予定時刻が過ぎた為にリリーナが連絡をすべきかと迷っていた。
だが、ヒイロの外出が仕事であり、その仕事も普通ではないとリリーナは察していた。
故に、ヒイロと連絡が出来る携帯電話とにらめっこをする様に見つめながら呟いた。
「これも恋する乙女らしい感覚なのかしら?」
「……それは違うと思われます」
そうリリーナに指摘したのは、ヒイロに頼まれてリリーナと共に居たノインだった。
ノインがヒイロとリリーナの新居に居る理由も知らされていないが故に、リリーナは意地悪な問い返しをした。
「あら、お義姉様が義妹に敬語なのですか?」
「……確かに私はリリーナ様の兄の妻ですが、敬意を表す事はいけませんか?」
「私は『ピースクラフト』の名を捨てました。ですから、今の私はただの一般市民です」
とリリーナはノインの意志と配慮を一刀両断したが故に、ノインはあえてそれを否定も肯定もせずにただリリーナへの指摘を補足した。
「……夫への配慮から、連絡を躊躇う妻の姿は、可愛らしいと思います」
「では……」
「ですが、リリーナ様の場合は乙女らしい戸惑いではなく、長年連れ添った夫への配慮と言った方が適切かと」
そういうノインの答えは、リリーナの答えよりも鋭い上に否定をする事も出来なかった。
それでもリリーナは足掻く様にノインの言動を少しでも否定しようとした。
「……本当に私に敬意があるのですか?」
「はい。嘘偽りなく」
というノインの簡潔でも深い決意も感じたリリーナは沈黙する事しか出来なかった。
そして、それがノインにとっては日常であるが故に、リリーナの沈黙の意図を確かめた。
「リリーナ様?」
「本当に皆さんは意地悪すぎですわ!」
【恋する女の子】5のお題(お題配布元starry-tales)