事件が多発過ぎて激務となった執務時間中に、蒼い表情のアグニがホークアイに告げた。
「ごめん、ホークアイ中尉。マスタング大佐をさぼらせて」
「……どのような理由でしょうか、カーチス少佐?」
「私もそろそろだと思っていたよ、ありがとう、アグニ」
そう言ったロイはアグニの肩を抱き寄せようとした為、アグニはロイの全身を凍らせる為の錬成陣を発動させようとした。
「今はまだ事故処理も続いている激務の執務時間中です、マスタング大佐」
とアグニがロイに告げると、それが日常だった部下達は冷静に現状説明を求めた。
「すんません。大佐を凍らせる前に、説明の方をお願いします」
「そうですね。今度はどのような大佐の我が儘を受け入れたのですか?」
そうホークアイから正しい指摘を受けたアグニはすぐに冷静さを取り戻した。
だが、想像している事実が、現実である可能性が高いが故に、アグニは言い淀んだ。
「……病院で確認しないと正確には言えないわ」
「そうだな。私も説明には病院での確認が先だな」
「つまり、少佐が病院に行かれる際に大佐の同行が必要だという意味でしょうか?」
というホークアイの冷静かつ的確な推測に対し、アグニは苦笑い、ロイは意味深に笑った。
その様な三者の反応を見せられた部下達は、ただアグニを労わる様な視線を向けた。
そして、アグニは部下達に対して苦笑いで答えるとホークアイの推測にも同意した。
「ええ。ロイの策略通りに妊娠したみたい」
「策略とは酷いな。私は君と結婚する為に励んだだけで、同意なく君には触れていないぞ?」
そうアグニへ問い返したロイは、ホークアイの厳しい視線と部下達の意味深な視線をスルーした。
また、その様な強引な手段を択んだロイに対し、アグニは冷静な口調で問いを返した。
「避妊を求めていた恋人に偽って、避妊をしていなかった事で良心は痛まれないの?」
「アグニを手に入れられるならば、私は手段も問わないぞ?」
というロイとアグニの会話から、ホークアイはただ現状をすぐに収める手段を選んだ。
「わかりました。大佐の権力をフルに使ってでも、早急に少佐と共に執務へお戻りください」
「ああ。そろそろだと思っていたから、色々と準備は整えているよ」
そういうロイの言動から、再び部下達はアグニに意味深かつ心配げな視線を向けた。
その視線の意味を理解しても、ロイを選んだ事を後悔していないアグニはただ苦笑った。
「ありがとう。でも、私が選んだ事だから」
「夫以外の男に甘いとは……酷い妻だな、君は」
というロイの発言が独占欲からだとアグニも気付いたが故に厳しい視線と問いを向けた。
「……だから、避妊に気をつけていた女を妊娠させても良い、と?」
「君が結婚を受け入れてくれれば、この様な強硬手段は選ばなかったが?」
そういうロイの自己中心的な問い返しに対し、アグニは怒声めいた主張をした。
「だから、私はロイが大総統になればって言ったでしょう!」
「そんなに待たされるつもりは無いと言っただろう!」
「私はロイが大総統になるまでは隣で守り続けたいと言ったでしょう!」
とアグニとロイの会話、否、互いに譲らない主張の意味がないと判じたホークアイは、再び二人の会話を強制終了させた。
「少佐と大佐の通院は認めましたが、痴話喧嘩は今の激務が終わってからにしてください」
「……ごめんなさい、ホークアイ中尉」
そうアグニはホークアイに謝罪したが、ロイはただ事態を解決する事を提案した。
「では、行くぞ、アグニ」
「ええ。ロイのサボりは短時間で済ませるわ」
「はい、これからも宜しくお願いします、少佐」
というホークアイが告げた言葉の真意を察したロイはそれを確かめる様に問い返した。
「……これからも?」
「少佐に大佐の手綱を持って頂く事が我々の願いです。ですから、少佐には『少佐』でいて頂きます」
そうホークアイが主張をすると、部下達も同意するように頷いた。
故に、ロイは作戦の失敗を察し、アグニは満面の笑みをみせた。
「ありがとう、ホークアイ中尉」
「いいえ、我々の願いでもあるだけです。宜しいですね、大佐?」
「……」
単発のIF設定の続編、第二弾となりました。
こちらも、続きを書く予定はなかったのですが、嬉しい感想とリクエストが有った為、続きを書いてみました!
更なる続きは……現段階では未定です。