沖田の指摘で昔の記憶が完全ではないと知った日の夜、千鶴は最後の欠片を夢で知った。
それは沖田と千鶴が雪村の里で二人だけで暮らしていた頃の幸せな記憶だった。
それ故に、千鶴は沖田への想いを更に深めると同時に、自身の罪も知って激しく悔いた。
その際の悲鳴、否、罪の重さゆえに大声で泣き出した千鶴の寝室のドアがノックされた。
「大丈夫か!」
そう問われた千鶴は言葉で答える余裕も無かった為、暗黙の了解で南雲が寝室に入った。
そして、千鶴の様子を側で見守ってきた経験から、状況を把握してから確認をした。
「その様子だとまたあの頃の事を思いだしたのか?」
「……うん」
「俺がおまえを殺そうとした時の頃か?」
「今の薫と、あの頃の薫は違う、でしょ?」
「ああ、今の俺はおまえの幸せを願ってる」
「うん。ありがとう、薫」
という千鶴が少しだけ穏やかな笑みを見せると、南雲はあえて視線を外してから答えた。
「……家族なんだから当たり前だろ」
「ふふふ、そうだね」
「じゃあ、なんでそんなに顔色が蒼白なんだ?」
そう問いかけた南雲の方が心労も多いと思えるくらい暗い表情で千鶴の頬に触れた。
ひどく心配させている事を心苦しいと思いながらも、南雲の配慮が千鶴は嬉しかった。
それ故に、千鶴は少しだけでも南雲の心労を拭おうと穏やかに微笑みながら問い返した。
「……そんなに顔色が悪い?」
「そうだな……沖田に殺されたとでも思うような顔色だな」
「ううん、違うよ。私が総司さんを殺したの」
「は?」
「総司さんは……沖田先輩はいつも本気だったんだよ。なのに……私は信じなかった」
という千鶴の告白、否、悔いと哀しみを感じさせる答えは南雲の言葉を奪った。
否、千鶴の想いを察した南雲は、ただ懺悔にも似た言葉をただ聞く事を選んだ。
「だから、何度も想いを否定され続けた総司さんはとても苦しんだと思うの」
「……なら、千鶴が素直に伝えれば解決するだろ?」
「え……」
「沖田は痛みよりもお前に想いを伝える事を選んでいる事くらい俺でも気付いている。だから、あとはお前が素直になって応える事が最善だろ?」
そういう南雲の提案、否、最善を示された千鶴はある可能性に気付いて苦笑った。
そして、千鶴が苦笑った理由にも気づいた南雲は眉間に皺を寄せながら同意した。
「まあ、沖田ならこれまでの不信に対する代価を強請る可能性はあるが」
「それも怖いね」
「だが、沖田から無理難題を強請られた際は、家族としても助けてやるから安心しろ」
「ありがとう、薫。頼りにしているよ」
という千鶴からの信頼が嬉しくも素直に受け取れない南雲は再び視線を逸らした。
また、その様な南雲の言動が千鶴を穏やかな気持ちにさせながらも勇気づけた。
それ故に、千鶴は明日の登校時間が酷く恋しくなった。
……やはり、千鶴嬢の想いをメインにするとコメディ(ギャグ?)は難しいようです。
ですが、ラストとなる次では再びSSLの笑撃度に真っ向勝負を挑みます!