ろいやる・とらぶる 第5話

城下の大通りをパトロールしていたガゼルは、組んでいたレオニスに話し掛けた。

「隊長、ディアーナも類友ですよね」

というガゼルの世間話を、レオニスは咎めることなく応えた。

「今回の件で治まると思うのだが……」

「メイも結婚した後でも台風でしたし、難しいんじゃないですか?」

「いや、大丈夫だろう」

そうレオニスが断言するのが珍しかったガゼルは、即座に問い返した。

「何でですか?」

「姫がダリスヘ戻られる際に護衛をしたのだが、何か吹っ切れた様な表情だった」

「……?」

無言で再び問い返すガゼルに対して、レオニスは端的に、だが的確に答えた。

「以前、ダリスへ嫁がれる際、姫は嬉しさの中に不安を残していたのだが、今回は違った」

「不安って……ダリスとの騒動があった時から以降は、クラインも安定した情勢ですよ?」

そうガゼルが言う通り、新王の治世は評判も治安も良いと内外に知れ渡っている。

だからこそ、パトロール中の騎士がこのような世間話をしていられるのだ。

それを強く認識しているレオニスはガゼルへ再確認させるように応えた。

「国ではなく……新陛下の事であったのだろう」

「新陛下の問題点って……シスコンくらいでしょう?」

と言う、ガゼルの答えはレオニスの期待通りだった。

なので、レオニスは再びガゼルに再確認を促した。

「それ故に、新陛下が結婚されない事で、色々と思う所があるのだろう」

そう言うレオニスの少ない言葉から現状を再確認したガゼルは小さな溜息をついた。

「……王族って大変ですね」

「そうだな。だが、その苦労を和らげるのも騎士の仕事だ」

そう言われたガゼルは騎士として認められた時以上に強い意志を込めて応えた。

「はい! 頑張ります!!」

 

 

 

一方、騎士達とは違い、安定しているとは思えないほど深刻な表情の臣下もいた。

「で、あの病の完治は、予想通りの数ヶ月で終わるんだな?」

そう問いかけたのはクラインの筆頭魔導師であるシオンだった。

そして、その問い掛けに応えたのは、元部下で独立した緋の肩掛けを持つキールだ。

「はい。完治は出来ると思います」

「良かったですね、シオン。あと数ヶ月でメイと二人だけの生活に戻れますよ」

暗い空気を感じていないような朗らかさで、口を挿んだのは旅芸人のイーリスである。

その朗らかさに隠された意味を理解が出来たシオンは、ジロリとイーリスを睨んだ。

「……イーリス、それは厭味か?」

「いえ、メイを世話で忙しくさせれば、浮気にも気付きませんから、丁度良いのでは?」

そうキールが真面目に問い掛けたので、シオンは鋭い視線で問い返した。

「……キール、有るコト無いコトをメイに吹きこんでいないだろうな?」

「火の無い所に煙は立たないと、異国の格言で聞いた事がありますよ」

「確かに、前例がなければ、メイもそんなコトを信じたりはしないでしょう」

そう二人がタッグを組んだように思えたシオンはただ言葉少なく問い返した。

「……イーリス」

「はい。頼まれているあの親子の監視と世話役は私に任せて下さい」

そう言うイーリスは仕事用の笑みを添えて答えた。

「……キール」

「あの親子の息子の治療は任せてもらって大丈夫です」

と、キールも完璧な答えを返した。

だからシオンは返す言葉を失ってしまった。

「……」

 

 

 

今回の騒動で活躍したメイはシルフィスとお茶会をしていた。

「王族って、大変だよね……」

「そうですね。新陛下も王妃の件ではいつも悩まされているようですし」

「陛下の治世に問題がないんだし、後継者はディアーナの子って決まったのにねぇ」

そう言ったメイは珍しく溜息をついた。

だからシルフィスはそれ以上溜息をつかせないように話を切り替えた。

「ですが、今回の里帰りは収穫があったようですね」

「収穫?」

シルフィスの言葉がわからなかったメイは端的に問い返した。

「姫の帰国には護衛として随行したのですが、ダリス王と楽しく会話されていましたので」

「あの二人のラブラブっぷりはいつものコトでしょ?」

そうメイが言うように、ダリスの新国王と王妃の親密さは内外に知れ渡っていた。

だが、親友であり、共にダリスヘと向かった事もあるシルフィスは的確に答えた。

「いえ、ダリスヘ嫁がれる際、何か心を残しているように思ったんです」

そう言われたメイは、公私での付き合いが深くなったクラインの新王の事を口にした。

「うーん。陛下もそんな感じなんだよね」

「そうなのですか?」

「ディアーナの様子が変わっただけじゃなくて、陛下も吹っ切れた感じだったんだ」

と言うメイ言葉を聞いたシルフィスは真面目に考え込んだ。

「……今回の騒動であの二人には得られるモノがあったのでしょうか?」

「ま、陛下のシスコンを満たすには、ディアーナの子供っていう、後継ぎしかないでしょ」

と、メイは深刻に考え始めたシルフィスの思考を吹き飛ばすように明るく答えた。

「そうですね。姫に似た方だと良いですね」

と、シルフィスはメイの思いにそう応えた。

だからメイも、含みの無い笑顔でシルフィスの言葉に頷いた。

「ディアーナや陛下達に似た子なら、きっとクラインを良い国にしてくれると思うよ」

「はい、わたしもそう思います」

 

 

 

そして、話題の渦中にあり、クラインでの生活を選んだ新王は書類の山に囲まれていた。

「あの~、本当に大丈夫ですか?」

そうアイシュに声を掛けられた新王、セイルはロイヤルスマイルで答えた。

「ああ、大丈夫だよ」

「ですが~」

そうアイシュが異を唱えるものおかしくない位、セイルの仕事は増える一方だった。

それはディアーナの件で政務が疎かになっていた所為なので、セイルは苦笑いを返した。

「確かにディアーナが里帰りしてから、仕事が疎かになっていたけどね」

しかし、新王となったセイルが国民の為に自ら率先して仕事をしている所為でもあった。

そして、その様に仕事に打ち込む事で逃げていた様にもアイシュは感じていた。

だが、今はその様な思いが嘘のように余裕ある笑顔をセイルは返していた。

「そうですか~。確かに~吹っ切れたようですね~」

心の内を読まれたような言葉に対して、セイルは再び得意のロイヤルスマイルを返した。

「そんなに表情が読みやすくなってしまったのかい?」

「いいえ~、そういう意味ではなくて~」

そう答えたアイシュは、持っている書類を落とすような勢いで慌てた。

それを見たセイルは含みの無い笑顔でアイシュに応えた。

「ははははは。大丈夫だよ、アイシュ」

「……陛下まで~シオン様に~毒されないでください~」

今にも泣きそうな顔をしているアイシュに対して、セイルは朗らかに答えた。

「そうだね。ディアーナの子を迎えた時、それがうつると大変だから、程々にしておくよ」

「……そうですね~。早く迎えられると~良いですね」

そう言われた時の事を思ったセイルは端的に、だが強い想いを込めて応えた。

「ああ、そうだね」

 

 

 

そして、今回の騒動で台風の目だったディアーナは、アルムと共にダリスヘと戻った。

しかし、あくまでも秘密裏に二人はダリスヘと戻ってきた。

だからディアーナは、深夜の寝室でも内緒話をする様にアルムにそっと話し掛けた。

「もう、里帰りなんてしませんから、アルムが国を空けるのはやめてくださいませ」

そう言われたアルムは、ディアーナの仕草に微笑みながらも『王』として問い返した。

「それは良い事だけど……里帰りを希望した理由を聞いてもいいかい?」

「……幸せな結婚をした妹が、同じ幸せを持とうとしない兄を心配していただけですわ」

と、ディアーナは答えた。

その言葉に偽りがないとアルムはわかっていたが、更に言葉を無言で促した。

だからディアーナは、アルムに対する真摯な思いを言葉にした。

「わたくし、アルムと結ばれる事が夢でしたの。その夢が叶って、とても幸せですわ」

「……それは僕も同じだよ」

そうアルムは答えた。

ディアーナの真意はともかく、語られた『夢』はアルムにも大切なものだったから。

「ええ、だから、お兄様が妻ではなく後継者を求めていたから、わからなかったんですの」

「君の兄上が求めている幸せが?」

「ええ。でも、お兄様も『幸せ』だとわかりましたから……」

そうクラインの新王の事を語るディアーナの答えを聞いたアルムはにっこりと微笑んだ。

「それは良かった。これで僕も安心して国と君を守る事が出来るよ」

そう応えたアルムの思いと真意を理解したディアーナも微笑みを返した。

「ええ。わたくしも協力しますわ。頑張りましょう、アルム」

「ありがとう、ディアーナ」

 

 

 

 

 

これにて『ろいやる・とらぶる』終了です。