「総司!」
そう怒声で名を呼ばれた沖田は、土方の激怒も気にせず、いつもの飄々とした態度だった。
「何かご用ですか、土方先生?」
「理由は察しているだろ!」
という土方と沖田の会話が平行線であるが故に、周囲にも配慮した千鶴は口を挟んだ。
「土方先生。申し訳ありませんが、詳しく教えて頂けますか?」
「あ、千鶴ちゃんも関係あるから僕が教えてあげるよ」
「おい、総司……」
そう土方は慌てて沖田の言葉、否、騒動のタネを告げる事を止めようとした。
しかし、土方の制止も気にしない沖田は満面の笑みで千鶴の問いに答えた。
「僕の将来の夢は婿養子だって進路希望に書いたんだよ。千鶴ちゃんは雪村家の跡取り娘だから、結婚するなら婿養子だろうと思って」
「……」
「……」
「あれ、千鶴ちゃんは雪村家を継がないつもりだった?」
という沖田は、沈黙する土方と千鶴の思いをあえて考えなかった。
否、沖田は正直である事を免罪符にして、自身の希望を正当化しようとした。
故に、千鶴は正当な主張、否、沖田の正当化を否定した。
「進路希望では希望大学名か希望職種を書くモノです!」
「だから、将来の希望を正直に書いただけだよ?」
そう沖田は千鶴の真っ当な主張をやんわりと否定しながら更に正当化をしようとした。
それを聞いた土方は、縁が深いが故の情も込めて、沖田の考えを真っ向から否定した。
「結婚が将来の夢だなんて、てめぇは幼稚園児か!」
「いくら今時の子が早熟でも、幼稚園児が婿養子なんて言葉は知りませんよ」
「精神年齢5歳児には似合いだろ!」
「そのお言葉はそっくりそのまま、綺麗にお返し出来ると思いますけど?」
という沖田は土方の怒声にも飄々と答え、傍らに居た千鶴はただ会話の推移を見守った。
その様な千鶴の思いを察した土方は、教頭としての立場を主張する様に告げた。
「……教頭に逆らうとは、良い度胸だな?」
「教頭権限で、一学生の卒業を止める気ですか?」
「担任権限で進級させねぇ事も出来るぞ。千鶴を先輩と呼びたいのか!」
そう土方に問われた沖田は少しだけ驚いてから満面の笑みで千鶴に問いかけた。
「あ、千鶴ちゃんが先輩って言うのも良いですね。そういうプレイは千鶴ちゃん的にOK?」
「総司!」
「総司さん!」
「とりあえず、僕の希望は変わりませんし、職権を乱用するなら、校長先生に直談判しますよ?」
と沖田が近藤の名を口にした為、土方はその意図を察して沈黙し、千鶴も違う提案をした。
「……沖田先輩、そろそろ部活の時間ですよ?」
「あ、そうだね。じゃあ、近藤さんのお手伝いもしたいから、先に失礼します」
そう言った沖田は土方に礼らしくない軽い礼をしてから道場へと向かった。
それを見送った土方は、沖田の軽口に秘められた本気を理解し、あえて千鶴に確認をした。
「……千鶴、本当に総司が良いのか?」
「はい。私が選ぶのは今も昔も沖田総司だけです」
「そうか……手に余る事態になったら、いつでも俺達を頼ってくれ」
という土方の言葉が沖田と千鶴への配慮だと察し、千鶴は土方に微笑みながら答えた。
「お気遣い、有り難うございます。でも、総司さんは大丈夫ですよ」
「……総司を頼んだ」
「はい。有り難うございます、土方さん」
そう千鶴が答えた為、土方はただ頭の上に片手で触れてから立ち去った。
その行為も温かい配慮だと察した千鶴もその様な土方を見送った。
薄桜鬼では連続更新のトップバッターが沖田×千鶴となりました。
ただ、土方さんの出番が多いのは……愛と萌えの影響を否定が出来ません(遠い目)
また、このお話は今回の連続更新終了後に更新をする、SSL設定を捏造した沖田編の番外的な小話にもなっています。
そして、沖田編はPS2版随想録のSSLの笑撃度に真っ向勝負をしているので、今作よりもコメディ色が強くなっていると思いますが……
明日は斉藤×千鶴+山崎の予定です。